2023/5/6 ライブ@青山シーバード
久しぶりにジャズバンド「直立猿人」でライブ演奏することになりました。これを掲載している当日の18時からです。
今回はジャズを演奏している人が作った曲ばかり集めてみる、というのが選曲のテーマです。うち1曲はバンドメンバーが作った曲だったりする。
聴いていただける方のために、曲紹介を出しておきます。
1.C minor(土岐英史)
2.Porco di maggio(Yoshiko Fukui)
3.King Neptune(Dexter Gordon)
4.Short Cake(J.J.Johnson)
5.Chan's Song(Herbie Hancock)
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷2丁目3-4
Google Mapなどで見ると青山学院沿いの道に面しているのですが、その道からの出入口はドラムで塞がれてしまうので、裏通りの入口から入ってください。
さて、久しぶりだけろちゃんと演奏できることやら(苦笑)
Selmer USA社のオメガ(Model 162/Model 164)について語るよ
日本でサックス奏者が「セルマー」と聞くと、サックスメーカーのランキングがあったならば毎年のように1位を争うような位置にいる高級サックスメーカーだというイメージを思い起こすのではないかと思う。実際問題として、セルマーのサックスは高価だ。メーカー別にアルトのフラッグシップモデル(銀製は除く)を比較してみましょう。
H.Selmer Supreme 825,000円
H.Selmer SERIE3 617,320円
ビュッフェ・クランポン SENZO 668,800円
J.KEILWERTH SX90R/BN 616,000円
YAMAHA YAS-875 499,950円
ヤナギサワ A-WO20 448,800円
上記はいずれも消費税込み価格で、2021年10月24日に「サックス専門店 WIND BROS.」のHPで掲載されていたものです。やはりセルマー、高いよ(笑)
ところが、ネットで「セルマー」を検索すると、そのイメージと懸け離れて安くセルマー製のサックスが売られている場面に遭遇することがあります。だが遭遇しても、慌てて飛びつかない方が良い。安いのには理由がある。
理由は概ね2つ。一つは最近出回っているニセモノ。セルマーやヤマハ、ヤナギサワと刻印したニセモノが、ヤフオク、メルカリやECサイトに出回っています。僕は値段だけ見てパスしてしまうので、いちいち中身は見ていないが、本物を知っている人が見れば一目瞭然ということが多いようですね。
そしてもう一つは、別のセルマー社製であるという場合。今回の記事は、この「別のセルマー社」が作った最後のアメリカ製プロフェッショナルサックスについてです。
サックスのことをある程度ご存じの方ならば、世の中に"Selmer"と名乗っている会社が二つあることはご存じでしょう。一つは、泣く子も黙るフランスのH.Selmer社。ジャズ界では超有名なマーク6という名機を生み出し、今でも新品でアルトを買うと80万円以上が飛んでしまうという、サックス吹きの多くが憧れる高級サックスの製造会社。そしてもう一つが、アメリカのSelmer USA社。
同じくSelmerの名を冠しているものの、この二つは全く別の会社です。H.Selmer社はフランスに本社と製造拠点を置く楽器メーカー。これに対してSelmer USAは、元来はH.Selmer製のクラリネットやサキソフォンをアメリカで販売するために、H.Selmer社の創業者兄弟のうち弟の方がアメリカで設立した会社。創業後しばらくして、従業員だったBandy氏へ株式を譲渡して弟は帰国し、H.Selmer社とは資本関係が無くなりましたが、引き続きアメリカで販売代理店としてH.Selmer社製のサックスを販売していました。ただ、それが高価だったため、H.Selmer社製のサックスも販売する一方 、Selmer USA社は低価格の管楽器を委託製造や自社製造で生産して、Selmer USA社製として販売しているのです。つまり、模造品を除けばセルマー製と称する安いサックスは、ほぼSelmer USA社製。
ウェイン・ショーターなどアメリカの著名なサックス奏者が、最初はSelmer USA社製のサックスでその経歴を始めたようです。ヤマハで言えば現在のY*S-280やY*S-380、Y*S-480といったスチューデントモデルの位置づけなので、高い評価を受けることは殆どありません。友人がSelmer USA製のサックスを下取りに出そうとして、値が付かなかったとも聞きます。
Selmer USAはその後、幾つもの楽器メーカーを買収し、現在ではConn-Selmer社という社名になっています。このConn-Selmer社は度重なる買収により、有名な管楽器のブランドを数多く引き継いでいて、トランペットで有名なVincent BachやC.G.Conn、King、Benge、Holton、Martinは、すべて現在、Conn-Selmer社の保有するブランド。ConnやKing、Martinはビンテージなアメリカンサックスの有名どころでもありますが、僕が好きなサックス メーカーのBuescher社も、1963年に買収され、後に吸収合併されてSelmer USA社製サックスの生産拠点となりました。
ただし、1980年代に入るとサックスの生産拠点として、台湾が台頭してきたことから、Selmer USA社も生産拠点を台湾へと移し、アメリカ国内で完結するサックス製造は終焉を迎えました。今では、Cannonballのように台湾製等の部品を組み立てるか、台湾製をOEMで販売するメーカしか残っていません。これはアメリカだけの現象ではなく、ヤマハや一部の欧州メーカー(カイルベルス等)も一部の生産拠点をアジアに移しています。利益率の高い高級機種は自国で生産し、安価なサックスはアジアで生産するという分業体制に移行したのは、サックスも工業製品である以上、抗いがたい時代の流れなのでしょう。
蛇足ですが、そんな分業化の流れのなかでも、ヤナギサワは1950年代から一貫して板橋区の工場での生産を続けています。1958年に入社した職人さんが今も現役で働いていらっしゃって、モノ作りを愛する姿勢には敬服させられます。
さて、Selmer USA社に話を戻します。同社製のサックスは高い評価を受けることが殆ど無いと書きましたが、その例外が僅かにあります。Model 162(アルト)とModel 164(テナー)、及びその後継機種として製造された極めて初期のAS-100/TS-100がその例外です。AS-100/TS-100は、同じ型番でありながら年代が進むにつれコストダウンで構造が簡略化されてゆき、スチューデントモデルにクラス替えしていることから、本稿では評価を棚上げし、162と164のみをSelmer USA社が製造した唯一のプロフェッショナルモデルであるとして解説を進めます。
この二つの機種は、事情通の間ではオメガと呼ばれているのですが、楽器にはOmegaとかΩといった刻印は一切ありません。ここで事情をややこしくするのが、同社製のサックスで楽器本体やケースにOmegaと刻印された機種の存在。先に書いたとおり、プロフェッショナルモデルはModel 162とModel 164だけなので、Omegaと刻印されているものはスチューデントモデルです。スチューデントモデルのOmegaと区別するために、事情通の中にはModel 162とModel 164をわざわざ「オリジナルオメガ」と呼ぶ方もいるとか。本稿では混同を避けるために、以後はModel 162とModel 164を総称してオメガ(162/164)と表記します。
このオメガ(162/164)を語るにあたっては、先に「アメセル」と称されるサックスについて触れねばなりません。なぜならオメガ(162/164)には、「最後のアメセル」といった都市伝説が残っているからです。
ジャズの世界だと多くのサックス奏者が珍重する「アメセル」というのは、H.Selmer社製の部品をフランスからアメリカに輸入し、Selmer USA社が組み立てて販売したものです。対比語みたいなものになりますが、アメセルではないH.Selmer社製のサックスのことを「フラセル」と呼んで、アメセルよりは価値が低いと見る人も多い。実際問題、中古サックス市場ではアメセルの方が明らかに高いですし。
なぜ完成品で輸入せず、アメリカで組み立てたのかの理由ですが、関税の高さによるといわれています。只の金属製品ということでパーツを輸入し、アメリカ国内で組み立ててから出荷する方が、完成品を輸入するより安かったようですね。だからこそ、アメリカのジャズサックス奏者の多くは、高いフラセルではなく安いアメセルを買っていた。
では、なぜアメセルの方がフラセルより価値が高いと見られるかというと、組み立てや最終仕上げの方法の相違により、アメセルの方が反応と響きが良いというのが有力な説。例えばラッカーをフラセルは焼き付けていますが、アメセルは薄く吹き付けただけ。U字管(一番管)と二番管、U字管とベルを接続している部分が、フラセルだと接着剤で、アメセルだと半田付けという相違。ラッカーはリードが発した振動を減衰させるので、それが薄い方が響きは良いでしょう。管の接合部も、接着剤よりは半田の方が振動を伝えるには向いているのでしょう。それ以外にも細かな違いがあるようですが、僕自身あまり関心が無い事なので、詳細を調べたことはありません。そもそも僕は、アメセルを試奏したことはあれど所有していないですし(笑)
実はSelmer USA社って、サックスの将来についてかなり真剣に考えていた会社なので、よりジャズ向けにするために、いろいろと組み立て工程で工夫をしていたのかもしれません。1960年代に入ってアメリカの音楽シーンでロックンロールやソウルミュージックが大きく台頭し、電気楽器が演奏の主役になりつつあった時期、Selmer USA社は電気楽器と渡り合うサックスとして、電化サックスを市販までこぎつけたなんていう実績もあります。結果として電化サックスは世間に受け入れられなかったものの、サックス人口の維持拡大を図るアプローチとしては面白い。こんな試みを行うような会社だから、アメセルの組み立て等にあたっても、よりミュージシャンのニーズに沿った楽器へとの努力が払われていて、それが現在の高評価へ繋がっているのではないかというのは僕の推測。
【参考】
H&A Selmer のエフェクター一体型サックス Varitone(1965年)
秘蔵楽器“蔵出し”徹底解説 その1 Varitone | TC楽器 中古楽器販売と買取
その他に、厳しいアメリカのジャズ界で一流ミュージシャンがこぞってアメセルを使っていたからという説もありますが、アメセル全盛期のアメリカで活躍したジャズサックス奏者のうち、デクスター・ゴードンはフラセルを使用していたので、僕はこの説に説得力を感じません。
さて、オメガ(162/164)と関係しないように見える話が続きましたが、これまで書かなかった重要なポイントがあります。それは、アメセルの組み立て工程を担っていたのが旧Buescher社の工場だということ。
アメリカで組み立てられたH.Selmer社製サックス(つまりアメセル)の大半は、以下の3機種です。
- Super Balanced Action(コルトレーンが愛用したことで有名 1948~1953)
- Mark 6(ジャズ界で最も人気のアメセル 1954~1974)
- Mark 7(Mark 6ほどの人気にはならなかった 1975~1980)
Mark 7 の後継機種がSuper Action 80(SA80)、今ではシリーズ1とも呼称されているモデルで、SA80のごく初期でアメリカでの組み立ては終了しました。日本に輸入された最後のアメセル(SA80)を買ったのは渡辺貞夫さんだったという話も聞きます。これがアメセルの終焉。
で、そこから少しして初のプロフェッショナルモデルであるオメガ(162/164)をSelmer USA社は世に出した。僕の推測ですが、おそらくSelmer USA社はSA80がアメリカのジャズマーケットにはあまり向いていないと考えたのでしょう。そこで旧Buescher社から引き継いだリソースを投入して、初のプロフェッショナル向けサックスとして開発したのがModel 162(アルト)であり、Model 164(テナー)であると。H.Selmer社の製品ではないという時点で、オメガ(162/164)は明らかにアメセルじゃありません。ですがかつてアメセルを組み立てていたのと同じ工場からオメガ(162/164)は出荷されています。
旧Buescher社から引き継いだリソースには、アメセルの組み立て工程もありましたから、オメガ(162/164)のラッカーや彫刻は、パッと見にはアメセルとよく似ています。そんなところもあって、オメガ(162/164)を「最後のアメセル」だという都市伝説が生まれたのかもしれません。ただし、二番管とベルを繋ぐ金具は三本足でありながら、テーブルキーはMark 7より明らかに小さいし、ベルの彫刻も独特で、見分けることは容易。よく見ると、U字管の補強金具は、Buescher400と同じような形状(一般的なV字型ではなくW字型)をしています。
Selmer USA社が意気込んでマーケットに送り込んだオメガ(162/164)ですが、商業的には成功していません。1982年から5年くらいの生産期間で、アルト1,400本程度、テナー600本程度と、さほど売れずに生産を終了しています。H.Selmer製で有名なMark6がアルト、ソプラノ、テナー 、バリトンを全部合わせると17万本以上も生産されたのと比較すると、如何に珍品(笑)であるかを実感していただけるかと。
ちなみに僕は何年かかけてBuescher400 Top Hat & Cane(1950年代製)を入手していて、それが結構気に入ったことから、最後のBuescherとしてのオメガ(162/164)を何年も探していました。ようやく今年、164(テナー)を入手することができ、最近はそれを吹いています。164を吹いた感じは、H.Selmerのサックスと操作性は同じなのだけど、それでも明らかに吹奏感は違う。さしずめ吹奏感はBuescher 400で、操作性はMark 6といったところ。
普段はアメセルを吹いている友人に試奏してもらった時、アメセルとは明らかに違うという感想でしたし、僕もBuescherの系統の楽器と共通しているように強く感じます。オーバーホールをお願いした管楽器店の店長さんも、ジャズに特化した性格がはっきりしているとおっしゃってました。ジャズマーケットに指向したアメリカ製プロフェッショナルサックスの、おそらくは最後の機種です。
ちなみに他のメーカーから同じ時期に発売された楽器を見ると、ヤマハはYAS-62(初代)で、ヤナギサワだと880。ヤマハの875やヤナギサワの900シリーズは、もう少し後の登場。だから、オメガ(162/164)をビンテージと見るか否かについては、人によって相当意見が分かれそうですね。
最近、ヤマハのYTS-82zとModel164を吹き比べてみたのですが、ジャズホーンっぽさから言うと僕は音色がダークなModel164に軍配を上げます。だからといって無条件に82zよりModel164が優れているかというと、そこまでの話ではない。Model164は良くも悪くもアメリカ製なので、必要以上に凝った造りにしているところもあれば、結構造りが雑なところもあります。このため、どちらを取るかは個人の好みに左右されるところが大きいでしょう。
サックスの修理工房でも滅多に見ない機種であり、万人向けでは無い機種でもありますが、僕は結構気に入って使っています。
◆◆参考にしたWeb情報◆◆
Atelier Ohtake Saxophone Selmer USA 162/164 (OMEGA) Saxophone
セルマー・オメガと呼ばれるモデルについて。その① セルマーUSA社のサックスは全てアメセルなのか? | サックス買取ラボふくおか
Buescherの表の補足「マニアックなBuescher」 | TASAKISAXのブログ
贅沢な造りのBuescher 400
今更ながらの話なのだが、2020年8月から2021年2月まで、テナーサックスのレッスンを受けていた。10年以上も前に、見様見真似でサックスを始めて、そのまま自己流で続けてきたのだが、どこかのタイミングで何か月か基礎を習った方が良いと思っていて、ようやく重い腰を上げた形になる。
テーブルキーの操作性を統一しておくため、レッスンを受講していた期間中はSelmer Mark7かYAMAHA 82Zだけを使っていた。しかし最近、最終レッスンが終わったので、久しぶりにBuescher 400(以後B400と記載する)を取り出し吹いてみた。やはり現代サックスとは違う魅力を持つ、つくづく良い楽器だと再認識。
テーブルキーの操作性を除けば、使いにくいなんてことは無いし、今のサックスより軽い。そして何より、独特の工夫だが今のサックスには見られない仕様が散見されるところが、現代においては見る者に、技術の無駄遣い加減というか、何とも言えぬ贅沢さを感じさせてくれる。
Buescherというメーカーは、1900年代にアメリカで金管楽器と木管楽器を製造していたのだが、1964年頃にUSA Selmer社に買収され、その数年後には合併されて消滅した。
自社ブランドだけでなく、製造工場を持たないブランドのためにOEMでも沢山の管楽器を製造している。 また、いわゆる「アメセル」(フランスから部品状態で輸入され、アメリカで組み立てられたSelmar製サックス)の組み立てを同社が行っていたとも言われている。
独自の構造として、サックスのキーカップにSnap on Pad機構を採用していたことでも知られている。次の画像で、ベルの上に乗せてあるのがSnapと呼ばれる金具。画像のSnapは裏返しになっていて、中央に留め具がある。パッドの中央に穴をあけ、Snapの留め具をその穴に通し、キーカップ側に溶接された凸部で接合することで、松脂や接着剤を使わずにパッドを固定するための機構。簡単にパッドを交換できるという利点はあるのだが、松脂を使ってパッドを固定する方が、トーンホールとパッドがより密着するように調整することが可能なので、パッド交換時にリペアマンの手間を増やし、調整料金が他メーカーのサックスより多少高くなるという結果を生んでいる。このため、この機構を除去して、穴を開けずにパッドを付けられるよう改造している人もいるようだ。
そんな、不便な面もあるのだが、一方で、通常よりも重量のあるメタルリゾネーターという性質もあることから、僕はオリジナルのままで使っている。
トランペットのチェット・ベイカーが、Buescherのユーザーとして有名。サックスについて言うと、ソニー・ロリンズがBuescherの"Big B"と称されるモデルを吹いていた時期があり、チャーリー・パーカーがB400のアルトを吹いている写真も残されている。また、エリントン楽団は一時期、サックスセクションをBuescherで統一していた。
さて、B400という楽器だが、1940年代から1960年代にかけてBuescher社が生産していたサックスの一モデルである。同じ時期に並行して生産されていたAristcratモデルは、ライバルであったKing(H.N.WHITE)、ConnやMartinと比較しても、比較的保守的な設計(ただしSnap on Pad機構を除く)であったが、B400は実験的というか、意欲的な仕様を持つモデルだ。中でもTop Hat and Caneと呼ばれる、シルクハットと杖の彫刻がベルに施されたモデルは、これが無いB400よりもかなり人気が高い。
B400の最大の特徴は、全体画像をご覧いただくとすぐ分かるのだが、Low BとLow B♭のキーカップがベルの背面(ベルと二番管の間)にあること。"Behind Bell"と呼ばれる構造で、これがために、キーシャフトの配置はかなり複雑なものとなったが、代わりにキーガードは省略できている。僕の知る範囲で、このBehind Bell構造を採用したサックスは、B400の他には、同じBuescherのAristcrat series 4 だけ。
日本にも輸入されていたが、現在、中古市場でその姿を見る機会は少ない。そして、アルト以上にテナーは姿を見ない。そんな中、僕は一時期、B400 Top Hat and Caneのアルトとテナーを同時に所有していたことがある。
先にe-bayでアルトを入手していたのだが、ある日、ホームページでB400テナーが売り出されたことを知って旧知の楽器店を訪れると、なんとホームページにまだ掲載していないものもあったという状況。希少なB400 Top Hat and Caneのテナーを2本のうちから1本選定できるという、想像もつかないくらい得難い機会をたまたま得たのは、良い思い出。いずれも調整が万全な状態ではなく、判断を迷ったことから一瞬、2本とも買ってしまおうかという考えが頭をよぎった。しかしその2か月くらい前にMark 7テナーを買ったばかりだし、Buescherは他にも400TH&CのアルトとAristcratのテナーがあったので、そこまでの無茶はできないと思いとどまって1本だけを入手。今となって考えると、2本買ったとしても、アメセル1本より安かったのだから、無茶してもよかったかな。(良い子は真似したらアカンで)
さて、B400の生産された時代には野心的な構造だったが、現代サックスには殆ど継承されなかった部分を見てゆこう。
最大の特徴は、やはり先述したBehind Bellなのだが、それだけではない。例えば、ネックの接合部。KingやConnで採用されていたダブルソケットと呼ばれる機構(ネック側の嵌合部を二重の円筒状として、その間に二番管を挿し入れるもの)では無いものの、嵌合部の真鍮を削った跡に銅板(真鍮より柔らかい素材)を巻き付け、密閉性の向上が図られている。
また、経年によるネックの垂れ下がりを抑えるためか、ネックの上部には補強板が貼られている。このため、オクターブキーはアンダースラング形状。ただし、Top Hat & CaneではないB400では、アンダースラングでは無い仕様のものもある。
ベルに目を移すと、ビッグベルの裏側には、シルバープレートでの補強が為されている。
ストラップリングも、見るからに重量がありそうな、真鍮では無い素材の金具が使われている。何らかの狙いがあったのだろう。
最後に、ベルの彫刻の中でも城の部分。僕のテナーは、単純に管体を彫っただけの仕様だが、ここに金属が盛られて、立体的彫刻になっている個体も存在している。すでに手放したアルトは、立体的彫刻だった。
つらつらと書いてきたが、何というか、ずいぶんと手間の掛かった楽器であることはお分かりいただけるだろう。工芸品と言っても良いのではないかと思っている。これが例えばヤマハの82Zだと工業製品という感じなので、それを眺めながら一杯呑もうとは思わないが、B400だったら、眺めながら3杯は呑めそうだ。
今更ながらの基礎練習と、細長い管楽器の入れ替わり
前回の更新が2020年4月27日だったので、ほぼ10か月ぶりとなる。長らく息をひそめていた間に、新型コロナウイルスの感染拡大といった歴史的イベントが続いていたが、私は今のところ、感染経験無しが幸いにして続いている。
昨年前半は長らくジャズセッション現場が休業状態となり、緊急事態宣言解除で自粛期間が明けた後も、客足が戻ってこないという声を時折聞く。利用者の立場としての私も、出かける先は実質メインの店のみに絞って、あまり範囲を広げないようにしているので、さもありなんと思う。
セッション現場へ出かける時間を減らしたので、その代わりにという訳でもないのだが、何か月かサックスのレッスンに通うことにした。サックスを始めて10年以上になるのだが、実はこれまでほぼ独習。言い方を換えると見様見真似ってやつ。でも、基礎を固めないままでは応用の限界が早く訪れるだろうから、いつかはレッスンで基礎を教わろうと思っていた。
2020年8月から月に2回ペースで基礎部分に重点を置いたレッスンを受け、自主練習の時間も基礎練習に時間を重点配分していた。おかげで、触ったことの無いキー(笑)というのは無くなったし、音の出し方も改善傾向にある。ただ、講師から出題していただいたジャズっぽいフレーズ集を身に着けるには、時間が足りない。フレーズ集はC、D、Gのキーで幾つか頂いたのだが、これを12キーで実戦に使えるようにするのが、当面の目標。という状態なので、2021年2月でレッスンは終了させ、あとは自主練習の予定。
こんな風に、昨年から基礎力アップに取り組んだ訳だが、なぜか楽器の入れ替わりも多かった。おかしいなぁ~(苦笑)
まずは、レッスンに使うテナーサックス。さすがに1940年代製のBuescher 400をレッスンに使う気にはならなかったので、Selmer Mark7とCannonball Ravenのいずれかという選択肢。Mark7は文句の出ない楽器なのだが、元プロ奏者の使用楽器で、それなりに疲労摩耗しているから、練習であまりすり減らしたくない。となると黒いキャノンボールしか無い。だが、2年くらい使っていて、自分にとっては重量過大と感じられたことと、台湾製の弱点として、軸受けが摩耗した後のメンテナンスに不安が残ることから、日本製もしくはフランス製に買い替えることとした。中古でSelmerのリファレンス36やヤマハの875など、いくつか試奏した結果、アンラッカーのヤマハの82Zに感動したものの、傍鳴りしないラッカーの82Zという選択に行き着いた。モデルチェンジ後のV1ネックではなく、初期のG1ネックの方で、10年以上昔の楽器なのに、見た目はほぼ新品。おそらくは前オーナーが何回か吹いて、そのまま使われなくなったのだろう。
レッスンには原則82Zを持参しているが、都合でMark7を持参したこともある。その時は講師がそれを試奏して、上から下までバランス良く音の出る良い楽器と絶賛されていた。だが、82Zもなかなか良い楽器だと思う。操作への反応はMark7より早いんじゃないかな。
話は戻って82Zを買う時に、キャノンボールと同時に、ソプラノの82ZRも下取りに出した。いい楽器なんだけど、ヤナギサワのS-9030と比べると、ほとんど使わなかったのだ。カーブドネックよりはストレートネックの方が、自分には向いているらしい。
これで管楽器が1本減ったなと思ったところへ、AKAIがスピーカー内蔵のEWI SOLOを発売するというニュースが飛び込んできた。実はすでに最も安いEWIを持っているのだが、外部音源が必要なので、箱から出していなかったのだ。発売希望価格を見て、すぐに予約を入れて届いたのがこちら。全長80センチくらいあるので、Travel Saxと比べると、なんとも巨大(笑)
EWIといえばTスクエア。なので宝島などチャラっと吹いて遊んでいたら、ショックなニュース。なんとヤマハが「デジタルサックス」を発売するだと . . . . . .
先にそれを知っていたら、EWI SOLO、買わなかったよ(トホホ)
だが、だからといってデジタルサックスを予約しないという選択肢は、ハナから思い浮かばなかった。自分でも、つくづくイカれていると思う。
というわけで、発売直後にデジタルサックスYDS-150を入手。
サックスっぽいマウスピースを使うが、アンブシュアの練習にはならない。それを分かって使う分には、面白い電子楽器だと思う。自宅での運指練習には使えるし、なんといっても、この大きさこの軽さでバリトンサックスの音が出せるんだぜ!!!
演奏頻度が無い割には、いろいろと楽器の変動があったなと、しみじみ思いながら、久しぶりの更新原稿を書いている。楽しみにしていた仙台の定禅寺ストリートジャズフェスティバル、昨年は当然のように中止となったが、今年はどうなることやら。開催される場合に備えて、また色々と仕込みの時期に入ります。
Travel Sax レビューみたいなもの
これを書いているのは2020年の4月。これに先立つこと13か月、2019年の3月に、Kickstarter経由で、とある商品開発に出捐した。それがコチラ
音楽にさほど関心が無い方が見ると、何に使うものなのか見当も付かないかと思うのだが、これはサックスの練習用器具。吹いても、この器具だけでは音が出ず、スマホアプリを通じて音を聞くことができるというもの。つまり、他の人を騒音被害で悩ませることなく、サックスを練習するための器具だ。
サックスに限らず、管楽器奏者にとって練習環境の確保は悩みの種。カラオケボックスを使ったり、河原へ出かけて吹くなど、それぞれが苦労している。だが、これが謳い文句どおりなら、その苦労は解消されるだろう。
出捐から1年を経て、ようやく発売可能な状態に至ったようで、最終プロトタイプが送られてきた。
Kickstarterで公開されている情報では、出捐者(バッカー)総数が247人で、国別に見ると日本が最多の87名。ということで、僕以外にも80人以上、発売前にこれを受け取るモノ好きがいる(笑)
【Kickstarterからの引用開始】
スペインで出荷されてから1週間近く経っているので、まぁ大丈夫だろうと思うが、一応はアルコール消毒のスプレーを吹きかけておく。
紙箱の中には、キャリングケース。
ケースには取扱説明書も入っている。しっかり日本語版になっていたのは、想定外で有難い。てっきり英語の説明書を苦心して読むものだと思っていた。
トランペットとソプラノサックスの持ち替え
何度か書いているとおり、僕は主にトランペットとテナーサックスを演奏している。普段はこの2つの楽器を同時に持ち歩いているが、たまにテナーをソプラノに変えることがある。
テナーとトランペットだと、音域(出る音の領域の全般的な高さ)はかなり違うのだが、これがソプラノだと、実はトランペットと大して違わない。一覧表にしてみると、以下のようになる。なお、ソプラノでHigh Gまで出ると記載しているが、これはHigh Gキーが付いている楽器が、それなりに普及しているために、このように記載している。「俺のはF#キーすら付いてないから、Gなんか出せない」と言われても、そこまでは知らんがな(笑)
このように音域を可視化すると一目瞭然なのだが、トランペットが上手い人の多くは、ソプラノサックスの音域を全部トランペットで出すことができる。
参考で僕がトランペットを始めた時と今の音域を書いておいたが、トランペットの最高音は、人によってかなり違う。僕はあまり苦労が無く、Middle Gまで出すことができる状態でスタートしたが、次のHigh Aを出せるようになるまで3年以上かかっているし、実務的に必要な最高音であるHigh Cを出せるまでには10年近くかかった。人によっては、最高音がMiddle Cからのスタートだったりする。このような、高い音が苦手なトランぺッターにとって、ソプラノサックスというのは、結構魅力的に映る楽器。使いたい(高い)音域が、すぐにも使えそうに見える。いざやろうと思うと、音程のコントロールが難しいとか、音色が細いとか、金切り声に聞こえがちとか、単純に楽器の価格が高いとか、色々とハードルはあるのだが、「あいつら(ソプラノ吹き)、旨いコトやりやがって」と妬むくらいなら、いっそやってみよう。1週間で挫折する確率が非常に高いから、あまり勧められないけど(笑)
なお、安いソプラノは音程が悪く使い物にならないことが多い。やるなら、そのへん調べてからにするほうが良いということは、言っておこう。
さて、僕の場合、ある程度はソプラノサックスを使える状況まで仕上げたので、トランペットとの持ち替えで使うことがある。そこで出てきそうな、素朴な疑問。
「音域が似ているのに、なんで持ち替えるのか?」
そう思ったトランぺッターなアナタ、フリューゲルホーンと持ち替えるのって、よくある話でしょう? 同じなンです。音色が違うというのが、最大の理由。トランペットの雑味タップリな音ばかりじゃなく、たまには清々しい音色、出してみたくなるんです。
おっさん初心者の大型二輪レンタル歴なぞ披歴してみる
2018年に、いい年齢(とし)のオッサンが大型二輪免許を取ってから1年が経過したわけだが、大型二輪じゃ無いのも取り混ぜて、何台か乗ってみた。その感想を披歴してみる。
最初に乗ったのが、スズキのSV650X。直角V型2気筒の650CCで、大型二輪としてはかなりスリムなバイク。パワーがさして手に余ることもなく、いいバイクだと思う。ただ、慣れないこともあり、渋滞時のクラッチ操作は少々負担に感じたことが記憶に残っている。
あと、これをレンタルする直前に、運悪く四十肩を発症してしまった。これの痛みをこらえながら、カフェレーサースタイルの前傾姿勢を続けるのは、結構つらかった。
二番目に乗ったのは、大型二輪の最近の売れ筋であるカワサキZ900RS。見るからに、懐かしいオートバイの形。メーターもアナログで、外観は僕の好みにドンピシャ。
アクセルをさして開けなければ、扱いにくいということも無いが、高速道路で大きくアクセルを開けると、かなりの加速。一気にアクセルを開けたら、ウィリーするんじゃないかと思うくらい。さすがに100馬力を超えるだけのことはある。また乗ってみたいと思うのだが、レンタルの予約が結構埋まっていて、なかなか借りる機会が無い。
ちょっと意外だったのは、アイドリング時の排気音。予想していたより少々大きい。早朝にエンジンをかけて、アイドリングさせておくには、ご近所が少々気になるところ。
三番目はホンダのレブル500。同じシャシーで単気筒のレブル250が、今のマニュアルギアのバイクでは売れているらしいが、その2気筒版。こいつで栃木まで高速道路を往復したのだが、馬力は足りている。だがアメリカンなライディングポジションのため、風圧の影響をかなり受ける。80キロくらいで流すなら良いのだけど、それ以上だと、ヘルメットが風で揺さぶられることもあった。
これの前に4気筒に乗っていたこともあり、高速道路でハンドルへの振動はそれなりに感じる。だが、それで疲れるというほどでもない。
予想外だったのは、ライディングポジション。どうも僕には、アメリカンスタイルは向かないようだ。ステップとの位置関係が原因で、ギアが少し操作しづらかった。
四番目は、スズキのスクーターでバーグマン200。文字通り200ccなので、高速道路はキツいかなと予想していたのだが、普通に流れに乗って走る分には、さして不自由しないし、単気筒なのに振動は、同じく単気筒のエストレヤと比べると、雲泥の差。ウインドスクリーンが付いていたので、とにかくラクチン。スクーターだと200CC単気筒でも、以外と快適に走れるものだと、感心した。バイク乗りをダメにするスクーターかもしれない。
五番目も普通二輪。教習所で乗っていたのと同じ、ホンダのCB400SF。ただし、教習車はそれ専用のセッティングで、エンジンの出力も落としてあるらしい。また、教習所で6千回転以上に回す機会など無いが、このバイクのレッドゾーンは12,000回転より上から始まっている。というわけで、山道で乗るCB400SFは、教習所のそれとは別物。4気筒の400CCを思いっきり回して走るのは、かなり気持ちいい。
ライディングポジションは、これが一番しっくりくるし、6千回転を超えると別次元の馬力を発揮するエンジンと相まって、別に大型二輪でなくてもいいんじゃね?と思ったり思わなかったり。
さて、最後は大型二輪に戻って、カワサキのZ1000。人生初のリッターバイクが、こんなスパルタンなバイク(なんと140馬力)で良かったのだろうかと思いながら、三浦半島を走らせる。何て言うか、レーサーレプリカじゃないけど、回すとスゴいんです、って感じのバイク。さながら、加速番長!とでも呼ぼうか。
乗りにくいというわけじゃないが、CB400SFと比べると、やはり大排気量だなぁと実感させずにおかない。Z900RSよりもずっとスパルタンなバイクなので、1回乗れば、もういいかな。少なくとも、僕の好みからは外れている。
といった具合に、何台か乗ってきたわけだが、いつかハーレーに乗ってみたいという目標には、いまだ達していない。なにせハーレーは重い(300キロ超)ので、それよりは軽いバイクで慣れておこうと、少しずつ思いバイクに挑戦しているところ。これまでで最も重かったZ900RSが220キロくらいなので、もう少し段階が必要。ということで、次回はホンダのCB1300(270キロ)に挑戦します。