新・桂庵雑記

Jazz演奏やロードバイク、山や海など、桂庵(けいあん)が趣味に関することを書き散らしてます

サックスを始める人にアルトは扱いやすいのか?

現在、一般的に使われるサックスは、主に3種類。ソプラノ、アルト、テナー。小学校や中学校で習ったリコーダーと変わらない。バリトンサックスも有名で、ビッグバンドでは必須だが、かさばるし、値段も結構高いから、そう多くの方が持っているわけではない。あと、ソプラニーノというものもあって、ジャズ・フュージョンだと渡辺貞夫さんの演奏が比較的有名。

 

音の高さを比較すると、こんな関係になっている。

ソプラニーノ > ソプラノ > アルト > テナー > バリトン

 

管楽器の音の高さは、管の長さに反比例する。また、管が長いと当然ながら重くなる。従って、管の長さ・重さで見る場合、上掲の関係は逆になる。

 

さて、最近とあることを調べようとYou tubeで検索していて、ある方が「サックスを始めるには、テナーサックスが向いている」と言っているのに対し、結構な数でそれを叩くコメントが付いていた。曰く、サックスを始めるにあたって向いているのはアルトというのが常識だとか。

 

実際、サックスを始める人の多くはアルトを使うことが非常に多い。テナーで始める人は少数派で、ソプラノで始めたいというと変人扱いされることすらある。

 

では、誰もが演奏したことのあるリコーダーをダシに使い、僕の考えを説明してゆこう。リコーダーとサックスで、大きく違うところがあって、リコーダーは直管なのに対し、サックスは円錐管である。この違いは、音程のコントロールに大きく影響する。リコーダーは決められたとおりに穴を塞げば、決められた音程の音がほぼ正確に出るが、サックスはその決められているはずの音程の音を、誰もが正しい音程で出せるとは限らない。上下それぞれ半音くらいは、簡単にずれてしまう。人によってはサックスを「音痴な楽器」とも言うくらいだ。

 

半音くらいイイじゃないか、と思わなくも無いのだが、二つの音を組み合わせた和音のうち、もっとも耳障りに響くのが、実は半音違いの二音だったりする。このため、合奏するならば出来るだけ正確な音程で吹けるようにならなければならない。

 

ちょっとだけ物理の話をする。高い音は、低い音に比べて周波数が短い。ということは、高い音域でのドとレの周波数の差は、低い音域のドとレの差よりも短いわけだ。逆に考えると、同じ周波数の差であっても、高い音域と低い音域では、ズレの聞こえ方が全然異なってくる。極端な話をすると、高い音域だと多少ズレてるかなと聞こえるくらいの差なら、低い音域だと気にならなくなるのだ。

 

サックスを吹く人に「難しいサックスはどれ?」と聞いた場合、8割以上の方がソプラノ、1割くらいはソプラニーノと答えるんじゃないかと、経験上で感じている。つまり、管の長さが短く、音程のコントロールがより厳しく求められるサックスに、大抵のサックス奏者は苦手意識を持っているということ。

 

ここまで言えば、アルトとテナーのどちらが、サックスを始める人にとって優しい楽器なのかは、おのずと分かると思う。自分の経験からも、上記の理由からも、テナーの方がサックス初心者にも扱いやすい。

 

ちなみに、「フルートやクラリネットの方が、管の長さがアルトより短いんだけど、アルトより難しいの?」と思った方がいるかもしれない。少なくとも音程に関しては、アルトより楽だろうというのが、僕からの回答。なぜなら、フルートとクラリネットは、リコーダーと同じく直管だから。

 

ただし、アルトとテナーのどちらを選ぶのかを考える際に、音程コントロール以外にも考えるべきことがある。例えば楽器の大きさや、音色など。例えば、アルトは初心者だと、音色が金切り声みたいに耳障りな音になりやすい。また、テナーは結構重くて、持ち歩くときのケースまで含めた重量は8キロ以上を覚悟しなければならない。アルトなら5キロ以内に収めることも可能。そういった複数の要因を考えた結果として、アルトを選ぶ人もいるだろう。だが、盲目的に「始めるなら常識的にはアルト」と言われ、思考停止したままアルトを吹いている人、案外多いかもしれない。

 

「吹いたことが無い楽器について、比較しろと言われても」と思う方のために、吹かずに選ぶためのポイントを、書いておこう。

  • 人前で演奏するまでの時間が、例えば6か月後に発表会があるなどといった具合に、制限されていない
  • 積極的に管楽器と合奏したいとは思わない(吹奏楽部やビッグバンドなんてもってのほか)
  • 人に聞かせるレベルの音色に達するのに、半年以上の時間をかけることができる
  • 固い音色(対義語は柔らかい音色)が好き
  • サックスが上手な指導者がいる(ただし吹奏楽部の上級生は含めない)

 上の5項目は、全てアルトで始めても問題ないという視点で書かれている。従って、この5項目の3つ以上に当てはまるならば、僕のように、アルトで始めて大失敗という結果にはならないだろう。

 

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