新・桂庵雑記

Jazz演奏やロードバイク、山や海など、桂庵(けいあん)が趣味に関することを書き散らしてます

Selmer USA社のオメガ(Model 162/Model 164)について語るよ

日本でサックス奏者が「セルマー」と聞くと、サックスメーカーのランキングがあったならば毎年のように1位を争うような位置にいる高級サックスメーカーだというイメージを思い起こすのではないかと思う。実際問題として、セルマーのサックスは高価だ。メーカー別にアルトのフラッグシップモデル(銀製は除く)を比較してみましょう。

H.Selmer Supreme 825,000円
H.Selmer SERIE3 617,320円
ビュッフェ・クランポン SENZO 668,800円
J.KEILWERTH SX90R/BN 616,000円
YAMAHA YAS-875 499,950円
ヤナギサワ A-WO20 448,800円

上記はいずれも消費税込み価格で、2021年10月24日に「サックス専門店 WIND BROS.」のHPで掲載されていたものです。やはりセルマー、高いよ(笑)

 

ところが、ネットで「セルマー」を検索すると、そのイメージと懸け離れて安くセルマー製のサックスが売られている場面に遭遇することがあります。だが遭遇しても、慌てて飛びつかない方が良い。安いのには理由がある。

理由は概ね2つ。一つは最近出回っているニセモノ。セルマーヤマハ、ヤナギサワと刻印したニセモノが、ヤフオク、メルカリやECサイトに出回っています。僕は値段だけ見てパスしてしまうので、いちいち中身は見ていないが、本物を知っている人が見れば一目瞭然ということが多いようですね。
そしてもう一つは、別のセルマー社製であるという場合。今回の記事は、この「別のセルマー社」が作った最後のアメリカ製プロフェッショナルサックスについてです。

 

サックスのことをある程度ご存じの方ならば、世の中に"Selmer"と名乗っている会社が二つあることはご存じでしょう。一つは、泣く子も黙るフランスのH.Selmer社。ジャズ界では超有名なマーク6という名機を生み出し、今でも新品でアルトを買うと80万円以上が飛んでしまうという、サックス吹きの多くが憧れる高級サックスの製造会社。そしてもう一つが、アメリカのSelmer USA社。

同じくSelmerの名を冠しているものの、この二つは全く別の会社です。H.Selmer社はフランスに本社と製造拠点を置く楽器メーカー。これに対してSelmer USAは、元来はH.Selmer製のクラリネットサキソフォンアメリカで販売するために、H.Selmer社の創業者兄弟のうち弟の方がアメリカで設立した会社。創業後しばらくして、従業員だったBandy氏へ株式を譲渡して弟は帰国し、H.Selmer社とは資本関係が無くなりましたが、引き続きアメリカで販売代理店としてH.Selmer社製のサックスを販売していました。ただ、それが高価だったため、H.Selmer社製のサックスも販売する一方 、Selmer USA社は低価格の管楽器を委託製造や自社製造で生産して、Selmer USA社製として販売しているのです。つまり、模造品を除けばセルマー製と称する安いサックスは、ほぼSelmer USA社製。

ウェイン・ショーターなどアメリカの著名なサックス奏者が、最初はSelmer USA社製のサックスでその経歴を始めたようです。ヤマハで言えば現在のY*S-280やY*S-380、Y*S-480といったスチューデントモデルの位置づけなので、高い評価を受けることは殆どありません。友人がSelmer USA製のサックスを下取りに出そうとして、値が付かなかったとも聞きます。

 

Selmer USAはその後、幾つもの楽器メーカーを買収し、現在ではConn-Selmer社という社名になっています。このConn-Selmer社は度重なる買収により、有名な管楽器のブランドを数多く引き継いでいて、トランペットで有名なVincent BachやC.G.Conn、King、Benge、Holton、Martinは、すべて現在、Conn-Selmer社の保有するブランド。ConnやKing、Martinはビンテージなアメリカンサックスの有名どころでもありますが、僕が好きなサックス メーカーのBuescher社も、1963年に買収され、後に吸収合併されてSelmer USA社製サックスの生産拠点となりました。

ただし、1980年代に入るとサックスの生産拠点として、台湾が台頭してきたことから、Selmer USA社も生産拠点を台湾へと移し、アメリカ国内で完結するサックス製造は終焉を迎えました。今では、Cannonballのように台湾製等の部品を組み立てるか、台湾製OEMで販売するメーカしか残っていません。これはアメリカだけの現象ではなく、ヤマハや一部の欧州メーカー(カイルベルス等)も一部の生産拠点をアジアに移しています。利益率の高い高級機種は自国で生産し、安価なサックスはアジアで生産するという分業体制に移行したのは、サックスも工業製品である以上、抗いがたい時代の流れなのでしょう。

蛇足ですが、そんな分業化の流れのなかでも、ヤナギサワは1950年代から一貫して板橋区の工場での生産を続けています。1958年に入社した職人さんが今も現役で働いていらっしゃって、モノ作りを愛する姿勢には敬服させられます。

 

さて、Selmer USA社に話を戻します。同社製のサックスは高い評価を受けることが殆ど無いと書きましたが、その例外が僅かにあります。Model 162(アルト)とModel 164(テナー)、及びその後継機種として製造された極めて初期のAS-100/TS-100がその例外です。AS-100/TS-100は、同じ型番でありながら年代が進むにつれコストダウンで構造が簡略化されてゆき、スチューデントモデルにクラス替えしていることから、本稿では評価を棚上げし、162と164のみをSelmer USA社が製造した唯一のプロフェッショナルモデルであるとして解説を進めます。

この二つの機種は、事情通の間ではオメガと呼ばれているのですが、楽器にはOmegaとかΩといった刻印は一切ありません。ここで事情をややこしくするのが、同社製のサックスで楽器本体やケースにOmegaと刻印された機種の存在。先に書いたとおり、プロフェッショナルモデルはModel 162とModel 164だけなので、Omegaと刻印されているものはスチューデントモデルです。スチューデントモデルのOmegaと区別するために、事情通の中にはModel 162とModel 164をわざわざ「オリジナルオメガ」と呼ぶ方もいるとか。本稿では混同を避けるために、以後はModel 162とModel 164を総称してオメガ(162/164)と表記します。

 

このオメガ(162/164)を語るにあたっては、先に「アメセル」と称されるサックスについて触れねばなりません。なぜならオメガ(162/164)には、「最後のアメセル」といった都市伝説が残っているからです。

ジャズの世界だと多くのサックス奏者が珍重する「アメセル」というのは、H.Selmer社製の部品をフランスからアメリカに輸入し、Selmer USA社が組み立てて販売したものです。対比語みたいなものになりますが、アメセルではないH.Selmer社製のサックスのことを「フラセル」と呼んで、アメセルよりは価値が低いと見る人も多い。実際問題、中古サックス市場ではアメセルの方が明らかに高いですし。

なぜ完成品で輸入せず、アメリカで組み立てたのかの理由ですが、関税の高さによるといわれています。只の金属製品ということでパーツを輸入し、アメリカ国内で組み立ててから出荷する方が、完成品を輸入するより安かったようですね。だからこそ、アメリカのジャズサックス奏者の多くは、高いフラセルではなく安いアメセルを買っていた。

 

では、なぜアメセルの方がフラセルより価値が高いと見られるかというと、組み立てや最終仕上げの方法の相違により、アメセルの方が反応と響きが良いというのが有力な説。例えばラッカーをフラセルは焼き付けていますが、アメセルは薄く吹き付けただけ。U字管(一番管)と二番管、U字管とベルを接続している部分が、フラセルだと接着剤で、アメセルだと半田付けという相違。ラッカーはリードが発した振動を減衰させるので、それが薄い方が響きは良いでしょう。管の接合部も、接着剤よりは半田の方が振動を伝えるには向いているのでしょう。それ以外にも細かな違いがあるようですが、僕自身あまり関心が無い事なので、詳細を調べたことはありません。そもそも僕は、アメセルを試奏したことはあれど所有していないですし(笑)

実はSelmer USA社って、サックスの将来についてかなり真剣に考えていた会社なので、よりジャズ向けにするために、いろいろと組み立て工程で工夫をしていたのかもしれません。1960年代に入ってアメリカの音楽シーンでロックンロールやソウルミュージックが大きく台頭し、電気楽器が演奏の主役になりつつあった時期、Selmer USA社は電気楽器と渡り合うサックスとして、電化サックスを市販までこぎつけたなんていう実績もあります。結果として電化サックスは世間に受け入れられなかったものの、サックス人口の維持拡大を図るアプローチとしては面白い。こんな試みを行うような会社だから、アメセルの組み立て等にあたっても、よりミュージシャンのニーズに沿った楽器へとの努力が払われていて、それが現在の高評価へ繋がっているのではないかというのは僕の推測。

【参考】
H&A Selmerエフェクター一体型サックス Varitone(1965年)

秘蔵楽器“蔵出し”徹底解説 その1 Varitone | TC楽器 中古楽器販売と買取

 

その他に、厳しいアメリカのジャズ界で一流ミュージシャンがこぞってアメセルを使っていたからという説もありますが、アメセル全盛期のアメリカで活躍したジャズサックス奏者のうち、デクスター・ゴードンはフラセルを使用していたので、僕はこの説に説得力を感じません。


さて、オメガ(162/164)と関係しないように見える話が続きましたが、これまで書かなかった重要なポイントがあります。それは、アメセルの組み立て工程を担っていたのが旧Buescher社の工場だということ。

アメリカで組み立てられたH.Selmer社製サックス(つまりアメセル)の大半は、以下の3機種です。

  • Super Balanced Action(コルトレーンが愛用したことで有名 1948~1953)
  • Mark 6(ジャズ界で最も人気のアメセル 1954~1974)
  • Mark 7(Mark 6ほどの人気にはならなかった 1975~1980)

Mark 7 の後継機種がSuper Action 80(SA80)、今ではシリーズ1とも呼称されているモデルで、SA80のごく初期でアメリカでの組み立ては終了しました。日本に輸入された最後のアメセル(SA80)を買ったのは渡辺貞夫さんだったという話も聞きます。これがアメセルの終焉。

で、そこから少しして初のプロフェッショナルモデルであるオメガ(162/164)をSelmer USA社は世に出した。僕の推測ですが、おそらくSelmer USA社はSA80がアメリカのジャズマーケットにはあまり向いていないと考えたのでしょう。そこで旧Buescher社から引き継いだリソースを投入して、初のプロフェッショナル向けサックスとして開発したのがModel 162(アルト)であり、Model 164(テナー)であると。H.Selmer社の製品ではないという時点で、オメガ(162/164)は明らかにアメセルじゃありません。ですがかつてアメセルを組み立てていたのと同じ工場からオメガ(162/164)は出荷されています。

 

旧Buescher社から引き継いだリソースには、アメセルの組み立て工程もありましたから、オメガ(162/164)のラッカーや彫刻は、パッと見にはアメセルとよく似ています。そんなところもあって、オメガ(162/164)を「最後のアメセル」だという都市伝説が生まれたのかもしれません。ただし、二番管とベルを繋ぐ金具は三本足でありながら、テーブルキーはMark 7より明らかに小さいし、ベルの彫刻も独特で、見分けることは容易。よく見ると、U字管の補強金具は、Buescher400と同じような形状(一般的なV字型ではなくW字型)をしています。

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オメガ162/164のベル彫刻の特徴

Selmer USA社が意気込んでマーケットに送り込んだオメガ(162/164)ですが、商業的には成功していません。1982年から5年くらいの生産期間で、アルト1,400本程度、テナー600本程度と、さほど売れずに生産を終了しています。H.Selmer製で有名なMark6がアルト、ソプラノ、テナー 、バリトンを全部合わせると17万本以上も生産されたのと比較すると、如何に珍品(笑)であるかを実感していただけるかと。

 

ちなみに僕は何年かかけてBuescher400 Top Hat & Cane(1950年代製)を入手していて、それが結構気に入ったことから、最後のBuescherとしてのオメガ(162/164)を何年も探していました。ようやく今年、164(テナー)を入手することができ、最近はそれを吹いています。164を吹いた感じは、H.Selmerのサックスと操作性は同じなのだけど、それでも明らかに吹奏感は違う。さしずめ吹奏感はBuescher 400で、操作性はMark 6といったところ。

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普段はアメセルを吹いている友人に試奏してもらった時、アメセルとは明らかに違うという感想でしたし、僕もBuescherの系統の楽器と共通しているように強く感じます。オーバーホールをお願いした管楽器店の店長さんも、ジャズに特化した性格がはっきりしているとおっしゃってました。ジャズマーケットに指向したアメリカ製プロフェッショナルサックスの、おそらくは最後の機種です。

 

ちなみに他のメーカーから同じ時期に発売された楽器を見ると、ヤマハはYAS-62(初代)で、ヤナギサワだと880。ヤマハの875やヤナギサワの900シリーズは、もう少し後の登場。だから、オメガ(162/164)をビンテージと見るか否かについては、人によって相当意見が分かれそうですね。

最近、ヤマハのYTS-82zとModel164を吹き比べてみたのですが、ジャズホーンっぽさから言うと僕は音色がダークなModel164に軍配を上げます。だからといって無条件に82zよりModel164が優れているかというと、そこまでの話ではない。Model164は良くも悪くもアメリカ製なので、必要以上に凝った造りにしているところもあれば、結構造りが雑なところもあります。このため、どちらを取るかは個人の好みに左右されるところが大きいでしょう。

サックスの修理工房でも滅多に見ない機種であり、万人向けでは無い機種でもありますが、僕は結構気に入って使っています。

 

◆◆参考にしたWeb情報◆◆

Atelier Ohtake Saxophone Selmer USA 162/164 (OMEGA) Saxophone

セルマー・オメガと呼ばれるモデルについて。その① セルマーUSA社のサックスは全てアメセルなのか? | サックス買取ラボふくおか

Buescherの表の補足「マニアックなBuescher」 | TASAKISAXのブログ

 

今更ながらの基礎練習と、細長い管楽器の入れ替わり

前回の更新が2020年4月27日だったので、ほぼ10か月ぶりとなる。長らく息をひそめていた間に、新型コロナウイルスの感染拡大といった歴史的イベントが続いていたが、私は今のところ、感染経験無しが幸いにして続いている。

 

昨年前半は長らくジャズセッション現場が休業状態となり、緊急事態宣言解除で自粛期間が明けた後も、客足が戻ってこないという声を時折聞く。利用者の立場としての私も、出かける先は実質メインの店のみに絞って、あまり範囲を広げないようにしているので、さもありなんと思う。

 

セッション現場へ出かける時間を減らしたので、その代わりにという訳でもないのだが、何か月かサックスのレッスンに通うことにした。サックスを始めて10年以上になるのだが、実はこれまでほぼ独習。言い方を換えると見様見真似ってやつ。でも、基礎を固めないままでは応用の限界が早く訪れるだろうから、いつかはレッスンで基礎を教わろうと思っていた。

 

2020年8月から月に2回ペースで基礎部分に重点を置いたレッスンを受け、自主練習の時間も基礎練習に時間を重点配分していた。おかげで、触ったことの無いキー(笑)というのは無くなったし、音の出し方も改善傾向にある。ただ、講師から出題していただいたジャズっぽいフレーズ集を身に着けるには、時間が足りない。フレーズ集はC、D、Gのキーで幾つか頂いたのだが、これを12キーで実戦に使えるようにするのが、当面の目標。という状態なので、2021年2月でレッスンは終了させ、あとは自主練習の予定。

 

こんな風に、昨年から基礎力アップに取り組んだ訳だが、なぜか楽器の入れ替わりも多かった。おかしいなぁ~(苦笑)

 

まずは、レッスンに使うテナーサックス。さすがに1940年代製のBuescher 400をレッスンに使う気にはならなかったので、Selmer Mark7とCannonball Ravenのいずれかという選択肢。Mark7は文句の出ない楽器なのだが、元プロ奏者の使用楽器で、それなりに疲労摩耗しているから、練習であまりすり減らしたくない。となると黒いキャノンボールしか無い。だが、2年くらい使っていて、自分にとっては重量過大と感じられたことと、台湾製の弱点として、軸受けが摩耗した後のメンテナンスに不安が残ることから、日本製もしくはフランス製に買い替えることとした。中古でSelmerのリファレンス36やヤマハの875など、いくつか試奏した結果、アンラッカーのヤマハの82Zに感動したものの、傍鳴りしないラッカーの82Zという選択に行き着いた。モデルチェンジ後のV1ネックではなく、初期のG1ネックの方で、10年以上昔の楽器なのに、見た目はほぼ新品。おそらくは前オーナーが何回か吹いて、そのまま使われなくなったのだろう。

 

レッスンには原則82Zを持参しているが、都合でMark7を持参したこともある。その時は講師がそれを試奏して、上から下までバランス良く音の出る良い楽器と絶賛されていた。だが、82Zもなかなか良い楽器だと思う。操作への反応はMark7より早いんじゃないかな。

 

話は戻って82Zを買う時に、キャノンボールと同時に、ソプラノの82ZRも下取りに出した。いい楽器なんだけど、ヤナギサワのS-9030と比べると、ほとんど使わなかったのだ。カーブドネックよりはストレートネックの方が、自分には向いているらしい。

 

これで管楽器が1本減ったなと思ったところへ、AKAIがスピーカー内蔵のEWI SOLOを発売するというニュースが飛び込んできた。実はすでに最も安いEWIを持っているのだが、外部音源が必要なので、箱から出していなかったのだ。発売希望価格を見て、すぐに予約を入れて届いたのがこちら。全長80センチくらいあるので、Travel Saxと比べると、なんとも巨大(笑)

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EWIといえばTスクエア。なので宝島などチャラっと吹いて遊んでいたら、ショックなニュース。なんとヤマハが「デジタルサックス」を発売するだと . . . . . .

 

先にそれを知っていたら、EWI SOLO、買わなかったよ(トホホ)

 

だが、だからといってデジタルサックスを予約しないという選択肢は、ハナから思い浮かばなかった。自分でも、つくづくイカれていると思う。

 

というわけで、発売直後にデジタルサックスYDS-150を入手。

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サックスっぽいマウスピースを使うが、アンブシュアの練習にはならない。それを分かって使う分には、面白い電子楽器だと思う。自宅での運指練習には使えるし、なんといっても、この大きさこの軽さでバリトンサックスの音が出せるんだぜ!!!

 

演奏頻度が無い割には、いろいろと楽器の変動があったなと、しみじみ思いながら、久しぶりの更新原稿を書いている。楽しみにしていた仙台の定禅寺ストリートジャズフェスティバル、昨年は当然のように中止となったが、今年はどうなることやら。開催される場合に備えて、また色々と仕込みの時期に入ります。

 

トランペットとソプラノサックスの持ち替え

何度か書いているとおり、僕は主にトランペットとテナーサックスを演奏している。普段はこの2つの楽器を同時に持ち歩いているが、たまにテナーをソプラノに変えることがある。

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テナーとトランペットだと、音域(出る音の領域の全般的な高さ)はかなり違うのだが、これがソプラノだと、実はトランペットと大して違わない。一覧表にしてみると、以下のようになる。なお、ソプラノでHigh Gまで出ると記載しているが、これはHigh Gキーが付いている楽器が、それなりに普及しているために、このように記載している。「俺のはF#キーすら付いてないから、Gなんか出せない」と言われても、そこまでは知らんがな(笑)

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このように音域を可視化すると一目瞭然なのだが、トランペットが上手い人の多くは、ソプラノサックスの音域を全部トランペットで出すことができる。

 

参考で僕がトランペットを始めた時と今の音域を書いておいたが、トランペットの最高音は、人によってかなり違う。僕はあまり苦労が無く、Middle Gまで出すことができる状態でスタートしたが、次のHigh Aを出せるようになるまで3年以上かかっているし、実務的に必要な最高音であるHigh Cを出せるまでには10年近くかかった。人によっては、最高音がMiddle Cからのスタートだったりする。このような、高い音が苦手なトランぺッターにとって、ソプラノサックスというのは、結構魅力的に映る楽器。使いたい(高い)音域が、すぐにも使えそうに見える。いざやろうと思うと、音程のコントロールが難しいとか、音色が細いとか、金切り声に聞こえがちとか、単純に楽器の価格が高いとか、色々とハードルはあるのだが、「あいつら(ソプラノ吹き)、旨いコトやりやがって」と妬むくらいなら、いっそやってみよう。1週間で挫折する確率が非常に高いから、あまり勧められないけど(笑)

なお、安いソプラノは音程が悪く使い物にならないことが多い。やるなら、そのへん調べてからにするほうが良いということは、言っておこう。

 

さて、僕の場合、ある程度はソプラノサックスを使える状況まで仕上げたので、トランペットとの持ち替えで使うことがある。そこで出てきそうな、素朴な疑問。

 

「音域が似ているのに、なんで持ち替えるのか?」

 

そう思ったトランぺッターなアナタ、フリューゲルホーンと持ち替えるのって、よくある話でしょう? 同じなンです。音色が違うというのが、最大の理由。トランペットの雑味タップリな音ばかりじゃなく、たまには清々しい音色、出してみたくなるんです。

 

 

Donald Fagenを探る僕の事情、もしくは如何にしてジャズが見限られたのか

僕が普段聴く音楽は、ほぼジャズばかり。でも、子供の頃からそうだったわけじゃない。同年代の人並みに、FMのエアチェックで日本のポップスを聴いていたし、洋楽も少しは聴いた。

 

このように、ジャズセッションで出会うアマチュアミュージシャンの多くと同じく、僕も出発点はフォーク、ニューミュージック、ポップス、そして洋楽。大学を卒業してから、ソニー・ロリンズの名盤「サキソフォン・コロッサス」に出会い、それからはジャズ漬けの日々を送っている。

 

 洋楽について、少しは聴いたと書いたが、未だにクリームなど弩級のメジャーどころすら頭に入っていないことが、今でも時々露呈してしまう。バンド(歌手)に着目して聴くのでは無く、その時に流行っている洋楽を何度か聴く程度だったから、洋楽については殆ど曲単位での知識しか無い。だから、洋楽のジャンル分けも、知識がすごく曖昧。

 

このように洋楽については、基本的には曲単位でしか着目しなかったのだが、例外的にアーティスト名をキーにして聴いていたのが、AORの代名詞とも言えるSteely Dan / Donald Fagen。もっとも、他にAORのアーティスト名を挙げてみろと言われたら、即座に白旗を揚げるんだけどね。

 

脱線しかけたが、最初にI.G.Y.を聴いた時は、なんて洒落た音楽なんだろうと強い衝撃を受けた。そして、AjaやGauchoで、またも「スッゲー、他のミュージシャンとは違っているってことだけ分かるが、何が違うのかが分からない。でもとにかく、格好いい」と思わされ、そのまま現在に至る。

 

 ジャズの影響を強く受けているというか話は聞いたことがあるのだけれど、それ以外にも、最近こんな本を読んで、何が違うのかを少しだけ紐解くことができた気がする。ちなみにナイトフライってのは、I.G.Y.が冒頭に収録されているDonald Fagenのソロデビューアルバムのこと。

ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法

ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法

 

 

とはいえ、なぜナイトフライやAja、Gauchoを洒落ている、もしくは格好いいと僕が感じたのか、それについての手掛かりは無かった。このため、次に手にした本がこちら。

ヒップの極意 EMINENT HIPSTERS

ヒップの極意 EMINENT HIPSTERS

 

 

 ライターとしてのDonald Fagenが書いたエッセイを集めたこの本、実を言うと僕はまだ第一章しか読めていない。何故かというと、予習復習が必要な内容だったから。

 

「エッセイ集を読むのに何で予習や復習が要るんだ?」と思われるかもしれない。でも、予習無しで読んだら、1割くらいしか頭に入ってこないだろう。たまたま僕は、予習に適した本を読んだことがあるので、3割くらい、なんとか頭に入った気がする。でも、もっと深く読み解くためには、復習として調べ物が必要。

 

第一章を読んで分かったのは、Donald Fagenのルーツが幼少期からのジャズ体験(ハイスクールの頃はピアノトリオでジャズを演奏していたらしい)にあり、ジャズに飽き足らなくなって、その先に進んだ人だということ。ゆえに、第一章は1920年代のジャズシンガーの話から始まって、マンシーニに至っている。それを語る過程で、ミンストレルショーなど、その頃のアメリカの風俗に関する予備知識が多少なりとも無いと、Donaldが何を言っているのか、さっぱり分からない。エラい本に手ぇ出してもうたなぁ(汗)

 

などと、脅かすようなことを書いてきたが、その文章は音楽と同様に洒落ていると感じる。難解な文章が苦にならない方には、おすすめできるかな。

ちなみに、予習に適した本と書いたのは、これのこと。こちらも独特の文体で、読みやすいとは言い難いが、ジャズの歴史を当時の風俗世情と絡めながら解説している良書だと思う。同じ著者の「憂鬱と官能を教えた学校」まで読むと、結構な予習になるだろう。

 

 

 

 

 

 

ソプラノサックスは身体を壊す

先に、ソプラノサックスのYAMAHA YSS-82Rを使っていると書いていたが、実は現時点ではその登場頻度が激減している。なぜなら、もう一本、ソプラノを買ってしまったから。 

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カーブネックだけでなく直管もイイなぁと思っていたところへ、タイミングよく(いや、悪くかもしれない)ヤナギサワ9030の中古と遭遇してしまった。吹いてみたら、音程は82ほどでは無いが許容範囲内で、しかも音に厚みがあったので、ついつい衝動買い。

 

画像の右側がヤナギサワで、管体は銀色。銀メッキではなく銀製だったりする。

 

ちなみに、銀の比重は真鍮より重い。というわけで、このヤナギサワは左のヤマハよりも結構重い。テナーサックスだったらストラップで楽器の重さの大半を支えるのだけれど、ソプラノサックスでは、構造上ストラップは役立たず。ゆえに、ソプラノサックスの重さは、大半を右手親指で支えている。

 

この重さの違いが、結構な影響があったようで、しばらくヤナギサワを集中的に使っていたら、右手の親指を痛めてしまった。昨年末に痛めたことを自覚してから、ソプラノを自粛すると共に、自己流でリハビリを続け、最近になってようやく、右手親指を動かすことに支障が無くなってきた状況。ぼちぼちソプラノを解禁予定。

 

どちらをより気に入っているかというと、ヤナギサワに軍配が上がる。やはりシルバーソニックの音色は、魅力的と言わざるを得ない。

 

ヤマハヤマハで、良い楽器なので当面手放す予定は無いが、しばらくは休眠状態が続きそうだ。

 

演奏します@2019年 定禅寺ストリートジャズフェスティバル in 仙台

更新しないまま、だいぶ日が過ぎてしまいましたが、どっこい生きてます。2019年に入ってからは、ジャズ演奏の方でネジを巻きなおしていました。というわけで、演奏予定のお知らせ。

 

2019年9月7日(土)13:45~14:25
定禅寺ストリートジャズフェスティバル in 仙台
シンボルロード水浴の女像前(ステージNo.8)
バンド名「直立猿人2019」

メンバー(mixi登録名)

あのまりあ(as)
ひらさわ旦那(tp,ts)
かに(pf)
コシノ(b)
N本(dr)

 

フェスの名称からも分かるように、仙台です。杜の都で30年近く続く、日本でも最大級のジャズフェスでの演奏です。何年も前に、3年連続で演奏したことがあるのですが、久しぶりに演奏の機会をいただきました。

 このジャズフェスはステージが50くらい設営され、ジャズコンボはメイン会場たる定禅寺通沿いの ステージになることが多いのですが、その中で最も西側のステージ。最大会場のメディアテークのすぐ近く。仙台駅からは、市営地下鉄南北線の泉中央行きに乗車して、2駅目の勾当台公園で下車。緑豊かな定禅寺通りを徒歩10分くらい進んだところの、中央分離帯に「水浴の女」像があります。

バンド名は、モダンジャズが好きな方ならピンとくるように、ミンガスのアルバムタイトルをパクッてますが、ミンガスの曲はやりません。ホレス・シルバーの曲ばかり演(や)ります。それも、有名なSong for my fatherとかではなく、初めて聴くような曲だけど、カッコ良い曲ばかり。

 

なお同じ日の、友人関係のジャズバンドの演奏予定を抜き書きしておきます。

●オールドファッションバディーズ (奥山さん)
11:55 本町スクエア(コシノさん演奏)

●Charly & Jazz Allstars (Charlyさん)
14:20 メディアテーク(屋内ステージ)

●すずめバンド (すずめさん)
15:50 シンボルロード夏の思い出像前

 それぞれの会場の位置関係ですが、本町スクエアは1キロくらい離れているけど、メディアテークと「夏の思い出像」は、同じ定禅寺通り沿いで、僕らが演奏する「水浴の女像」から徒歩で5分以内。近場で続けて観ることができます。

 

 この日、仙台にいらっしゃるようでしたら、ぜひともお越し下さい。

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ソプラノサックスを実戦投入

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新しいソプラノサックス、YAMAHA YSS-82Rを買ってから1か月が経過した。

近所の音楽スタジオへ練習に出かける時は、以前ならトランペットとテナーサックスを持参していたが、最近はそこにソプラノを追加して3本持参したり、ソプラノとトランペットの2本にしたりと、楽器選択のパターンが増えている。

 

このソプラノは、音程のコントロールが比較的容易なので、購入した次の週末から、いきなり演奏現場に投入した。3回使ってみて、今のところ他のプレイヤーから苦情は出ていないらしい。

 

冒頭の画像は、とあるジャズセッションでの光景。そもそもジャズセッションで、ソプラノサックスもフリューゲルホーンも、出現頻度は低い楽器だ。そんな代物を2つ、同じ人間が演奏しているのだから、珍しい状況と言っても良いだろう。喇叭とテナーサックスを交互に演奏することを他の参加者から驚かれるのは、これまでも良くあったのだが、今回「両方とも普通に吹いてますねー」と驚かれたのは、ソプラノサックスの面倒くささを知っている方だからかもしれない。

 

このジャズセッション、ホストは喇叭(らっぱ)で私の師匠にあたる方が務めている。ソプラノでの演奏を聴いた師匠からは、「サックスでもトランペットの時と同じようなフレーズを使っているね」との感想。楽器によりやりやすいフレーズとやりづらいフレーズがあるし、それぞれの特性を生かすよう、本人は多少違うフレーズを使っているつもりなのだが、他人から見ると大差ないようだ。少し残念。