新・桂庵雑記

Jazz演奏やロードバイク、山や海など、桂庵(けいあん)が趣味に関することを書き散らしてます

ソプラノサックスを巡る放浪

現在、管楽器のポートフォリオを再構築しつつあります。

そもそも、個人でそんなに幾つも持つはずのない「管楽器」という名詞に、分散投資を意味する「ポートフォリオ」という用語を組み合わせること自体が、世間一般的にはオカシイとも言えますが(笑)、一人で複数の楽器を演奏していますし、演奏する楽器の種類毎に1~5本の楽器を持っているので、全部合わせるとそれなりの数になるわけで。


ところが、両手では足りない数の管楽器があるにもかかわらず、自分でやりたいと思っている音楽領域には足りない楽器というものが、残念ながら存在します。一方で、メインの音楽領域に使う楽器はほぼ絞られてきているので、1年に1回も使わない楽器というのも、やはり存在する。


例えばアルトサックス。普段サックスはBuescher400とMark7の2本のテナーがあれば足りていて、敢えてアルトサックスを持ち出す場面は無い。一方、ハードバップより後のジャズやラテンバンドでは、ソプラノサックスが欲しいところなのだが、うちには満足に使えるソプラノが無い。

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このように、目的の達成という面では足りないが、不稼働資産が多い。これが今の僕の管楽器ポートフォリオ

というわけで、ポートフォリオ最適化計画の第一弾が、アルトサックス及びクラリネットの売却と、音程の良いソプラノサックスの入手です。せっかく勤務先が都内という利点を活かして、平日の晩に何本か試奏してきた。

現代のソプラノサックスは、ネック部分が管体から外せて、ストレートネックとカーブドネックの両方を使えるデタッチャブルタイプが多いのですが、僕はとある理由から一体型が好み。とにかく音程重視なので、設計年代の古い楽器とセルマー候補から外す。メーカーには多少のこだわり有。また、僕が演奏するとオモチャっぽく見えてしまうので、カーブドではなくストレート。こう考えてくると、主な検討対象は古くても音程に定評のあるYAMAHA YSS-62中古か、日本製or台湾製の近代サックスで一体型のストレートソプラノとなる。

さて、3日ほど店頭在庫を試奏した結果はご覧のとおり。

楽器としての評価
1位 Gottsu SEPIA VI
2位 YAMAHA YSS-82ZR(A店)
3位 Cannonball SVR-L "Vintage Series"
4位 YAMAHA YSS-62 [中古]
5位 ヤナギサワ S-901 [中古]
6位 YAMAHA YSS-82ZR(B店)

いくつかのHPで音程の良い名機と評されていたYSS-62が、案外にコントロールが難しかったのは意外でしたし、ましてYSS-82ZRが最下位に来るなんて結果も、完全に想定外。

これに対し、事前には何の期待もしていなかったGottsu SEPIA VI(シックスではなく、ヴィアイと読むらしい)が大健闘。マウスピースで有名になったGottsuが、サックスも作っているのですが、これの音程が非常に良い。YSS-82ZR(A店)と殆ど差を感じられないくらいの出来のよさ。また音色もダーク側に寄っていて、ジャズだけに使うならこれがベスト。ただしアンラッカーの外見は好みが分かれそう。最終的に購入する楽器を試奏していなかったら、僕はこれを買っていたと思う。

最下位のYSS-82ZR(B店)ですが、これはもう、どうしようもないレベル。まともな音が出ないという時点で、もう終わってます。実は一番最初に試奏したのがコレだったので、後日A店でYSS-82ZRを見た時、試奏せずにおこうかと思ったほどの悪印象。しかし、思い直して試奏したA店のYSS-82ZRは非常に優秀だったので、B店のこの結果は、個体差か調整の差のいずれか、あるいは両方のなせるものだったのでしょう。ちなみにA店では「82ZRは、けっこう個体差が大きい。」と評していました。

ちなみに分野別で評価すると、音色はCannonballのSVR-Lが最も豊かな音色の最上位でGottsuが2番。音程はYSS-82ZR(A店)が1番で、Gottsuが僅差の2番。

さて、楽器としての評価だけでなく、メンテナンスなど他の要素も考慮した、道具としての評価結果に従って、購入する楽器は選んでいます。実際に購入したのは、

YAMAHA YSS-82ZR(A店)


でした~(ここ拍手するところね)

 

Gottsuはすごく魅力的だったのですが、なにぶん取扱店が少ないので、地方でのメンテナンスに不安を覚える。また、ラテンバンドに使うには、音色が渋すぎるかもしれない。などなど諸般の事情を踏まえて、実に無難な、無難すぎるくらい無難な選択。オチも何もありません。とある友人には「君ならサクセロとかストリッチ(まっすぐなアルトサックス)とか行くかな、とも思ったンですが」と失望させてしまいました。期待していたヒトがいたら、ごめんねごめんねー。


今回、YSS-82ZRを買ったことに伴って、アルトサックスとバスクラを売却。アルトサックスは手元に無くなったけど、どうせ使わないからいいよね。

差し引きで管楽器は1本減少したが、それでもまだ両手では足りないことには変わりないようです(笑)

吹くだけじゃなく、弾くこともある

先日、久しぶりにアップライトベースで演奏現場に出かけてきた。

 

僕がトランペットだけでなく、ベースも演奏することについては、前に書いたことがある。

jazzwombat.hatenablog.jp

 「ベースって、あのギターの大きいヤツね」と思ったのなら、それは不正解。ベースはベースでも、ただのエレキベースじゃ無い。僕のアップライトベース YAMAHA SLB-100って、こんな楽器。

 そう、コントラバスの胴の部分を取り除いたみたいなエレキベースで、コントラバスと同じく、弓で演奏することもできる代物。長さは180センチくらいで、運搬時の重量は15キロくらいある。

 

それにしても、トランペットもサックスも演奏するのに、なぜこんな大物楽器に手を出しているのか? その理由としては、高音楽器であるトランペットを演奏している反動で、低音への憧れが大きいことと、深夜に自宅で練習してもOKという2つの要素が大きい。なにせ共鳴する胴が無いので、アンプに繋げないで弾くならば、音はごく小さい。このため、会社から帰宅して、とりあえず何かしら演奏してみたいが管楽器を抱えて外出する気力の無い時に、非常にありがたいのだ。

 

このアップライトベースを弾き始めて、おおむね8年くらいになるが、今でも毎日、出勤前に少し弾いている。弦の張力が強くて、慣れないとすぐ指が肉刺だらけになってしまうので、こまめな練習が欠かせない。

 

 さて、久しぶりに演奏現場でアンプに繋ぎ、音を出した。そして思い出した。もう何年も弦を張り替えていないことに。

 

エレキベースだと、早い人は3か月くらいで弦を交換する。コントラバスアップライトベース)だと、半年くらいが一つの目安。だが僕は、アンプを通さず、練習にしか使っていないので、もう4年は放置したままだ。

 

前回の交換のときに、どうせ何年も張り替えないだろうからと思って、すごく剛性の高い弦(スピロコアのハード)を張った。当初、相当に硬い弦だったので、今にいたってもそのハードさは、そこらへんのコントラバスの弦に引けを取っていない。だが、音という面からはボチボチ張り替えるほうが良さそうだと、アンプからの音を聞いて反省。

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というわけで、またスピロコアを購入。この弦、ジャズでコントラバスウッドベース)を演奏する人にとっては定番中の定番。僕も、あれこれ選択肢で悩んでも結果は大差ないだろうからと思い、この定番に乗っかってみた。ただし今度は弦の剛性は、ハードではなくミディアムにしている。先日の演奏現場では、2時間持たずに肉刺ができてしまった。もう少し指に優しい弦にしたので、次回は2時間演奏しても平気だと思いたい。

 

さまようフリューゲルホーン、もしくはYFH-731のこと

ジャズを演奏するトランペット吹きは、持ち替え楽器としてフリューゲルホーンも持っていることが多い。


バラードの演奏など、柔らかい音を求める場合に使うもので、僕も2本持っている。一時期はロータリー式やオールドケノンなどで4本持っていたのだが、さすがに使いきれないため、今後も使わなそうなモノは売却した。

今の2本は両方ともヤマハ製。1970年代のYFH-731 と現行モデルのYFH-8310ZSで、どちらも銀メッキ。

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YFH-731は1972年から1985年まで製造されていたモデルで、台湾のメーカーによくコピーされていたらしい。ヤマハの現行モデルでは、YFH-631がこれの復刻版という位置づけのようだ。特徴は、とにかく重量感があるということ。持った感じは他の楽器より重いし、音色はいかにも管体の厚みを感じさせるもの。

なお、同じ型番の731でも、初期型と後期型がある。初期型はベル寄りの3番抜き差し管に付いているが、後期型はマウスピース寄りの1番抜き差し管に付いているので、すぐに判別が可能。どちらかというと、初期型の方が評価は高いらしい。僕の場合はe-Bayで程度の良い初期型を見つけ、アメリカから輸入した。

評価の高いYFH-731だが、ピストンは唯一の難点。現代のトランペット、特にBachなどのピストンと比べると、とにかく重い。僕の場合、ピストンの重さをさほど気にしないため、バネの力を強めてピストンが早く戻るよう調整している。だが、僕の師匠も含め、ピストンの軽さを重視する演奏家は多い。

これに対し、YFH-8310ZSはいかにも現代の楽器。ピストンは軽く、音程もYFH-731より正確で、重量も軽い。どちらがコントロールし易いかと問われれば、8310に軍配を上げざるを得ないだろう。譜割りが細かくてテンポの速い曲をやるなら、断然8310だ。

ただ、だからといって731が不要ということにはならない。僕の場合だと、8割以上は731を使っている。演奏にフリューゲルホーンだけしか持参しないというケースは少なく、基本的にはトランペットとフリューゲルの2本を持参する。この場合、メインのトランペットSchilkeが軽量級なので、持ち替えは重量級とすることが多いのだ。

【YFH-731の音色】

YAMAHA YFH-731デモ演奏 - YouTube


【YFH-8310ZSの音色】 2分25秒くらいから僅かにデモ演奏

https://youtu.be/pPgvNXlehEIhttps://youtu.be/pSTwy1kNvUo


さて、この2本で満足しているかと言われると、実は自信が無い。ジャズでフリューゲルホーンを使う場合、ダークな音色を求められることが多いのだが、僕の2本は、いずれも僕が満足するほどダークとは言い難く、他メーカーのフリューゲルがダークな音色を響かせる場に行き会うと、つい気になってしまう。さて、ヤマハ2本体制は、いったい何時まで続くものやら(笑)

NANIWA EXP 還暦記念ライブ、行ってきた撮ってきた

10月29日に、Billboard TokyoでNANIWA EXPRESSのライブを観てきた。

NANIWA EXP は、1982年に結成されて1986年にいったん解散したフュージョンのグループ。僕が高校から大学にかけてのこの時期は、カシオペアに代表されるフュージョンの黄金期で、新聞のFM番組欄をエアチェック準備のため見ていると、「ナニワ」(当時はカタカナ表記だった)の文字はよく目にした記憶がある。

30年たった今では、僕がそうであるように、彼らもすっかりオッサンだ。メンバー5人のうち、すでに3人、まもなく1人、合計4人が還暦を迎えるとのことで、その記念ライブ。ちなみに、下の画像の左端に写っている青柳誠さん(key,sax)だけ55歳で、リーダーの清水興さん(b)からは「5年後にまた還暦記念ライブやったる」との宣言が飛び出した。

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Billboard Tokyo は、普段は録音録画お断りの場所なのだが、今回はリーダー清水興さんから「撮影OKだし、ネットへのアップも構へんでぇ~」とのお墨付きが、何時ものように出されたので、遠慮なくハンディカメラで録画させていただいた。なお、その一部はYoutubeで公開している。

NANIWA EXP " Believin' " on Billboard Tokyo / Oct 29 2016 - YouTube

NANIWA EXP " 大宇宙無限力神 " on Billboard Tokyo / Oct 29 2016 - YouTube

僕も、4百人くらいのステージやジャズセッションで演奏した経験があるのだが、その体験を踏まえ、この5人の演奏はつくづくスゲーなと思ってしまう。本当にね、音で遊んでいるという、いかにも楽しくやっている感じが、聴いている側にビシビシ伝わってくるんですよ。ステージ上での各種の音楽的やりとりが、たっぷりとした余裕の中で行われていて、でもそれは漫然としたものではなく、良い緊張感を必ず伴っている。こういったレベルの演奏は、なかなか出来るものじゃない。

還暦記念ライブということで、メンバーの大半が60歳だが、僕が30年前に抱いていた60歳のイメージと大幅にかけ離れている。オッサン達がステージ上で余裕をかましながら音楽で遊んでいる姿は、カッコ良いとしか言えない。自分もこんなカッコ良いオッサンになれるのだろうか。

 

僕が観ていたのは1st set で、ライブ後のサイン会が終わった後、一緒にライブを観にいった仲間と3人で楽屋の青柳誠さんを訪問。ライブで使用されていたテナーサックスとソプラノサックスを撮影させていただく。

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ちなみに、僕らが楽屋訪問できることになったのは、昨年僕が入手したテナーサックス(セルマーのMark7)を起点とした縁によるもの。そのテナーサックス、僕が石森管楽器で購入する前は青柳誠さんが30年くらい使用していたもので、付属していたフライトケースも青柳さんが使用していたものだった。それまでは、青柳さんの名前も、何をやっている方かも全く知らない状態だったのだが、そこから某同居人経由で縁がつながり、今回の楽屋訪問に至る。

以前は自身で使っていたフライトケースにサインをいただいた時は、「何だか妙な感じ」とおっしゃっていた。確かに、多少気恥ずかしい状況かもしれない。

 

青柳さんは現在、石森管楽器の Woodstone ブランドのテナーサックスを使用されている。ソプラノの方は、シルバープレートのストレートネックで、おそらくはセルマーのSA80だろうと思うのだが、よく分からなかった。

 

などと、つらつら書いてきたが、実は僕がNANIWA EXP の曲を初めて聴いたのが、実はMark7を入手した後だったりする。それまでは、何となく聴く機会がなかったのだが、惜しいことをしていた。こういうのを聴くと、自分でもやってみたくなる。長期的課題が、また一つ増えたようだ。

 

Bob Mintzerのトラウマ疑惑

僕は長らく、サックスを誰にも習わず、何の教本も使わずに吹いてきた。体験レッスンに行ってみたとか、チョロっと教本を触ってみたなんて程度の話はあったものの、実質的には独学だ。だが、このままではイカンと思い、先日こんな教本を買った。

 

著者のBob Mintzerについて、Word of Mouth Big Bandのテナーサックス奏者として知っていたが、演奏活動でも作曲・編曲でも音楽教育でも有名な方らしい。原著は1990年代に出版されていたようだが、邦訳は今年に入って出版された。目次など見ると、ありがちなサックス教本と違い、僕が求める内容に近いかもしれないと期待したので、密林(amazon)でポチっと注文したわけだ。

 

どんな内容か興味をお持ちの方のために、目次部分を掲載しておく。

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いかがだろう。独学で適当にやってきた僕は、このような内容にそそられてしまった。ロングトーンをこの教本に沿って1時間ほどやってみたが、全部は終わらない上に、腹筋も痛くなってきた。だが、この内容をこなせるようになれば、もっと良い音を出せそうな気がする。

 

さて、今回のお題はChapter 15「音楽学校では教えないこと-私の経験談」だ。

Jaco Pastoriusのビッグバンドで活動していた方なので、波乱万丈いろいろあったことだろうとは思うのだが、体験談にかなり異質な一項目があった。「ミュージシャンとしてやってはいけないこと」を5つ書いていたうちの、最初の3つを抜粋する。

 

/*引用開始*/

やってはいけないこと

1.自分の演奏に不満足でも、リスナーにそれを見せては(伝えては)いけません。演奏を聴いて楽しんでいるリスナーに悪影響を与えてしまいます。

2.公の場では、音楽全般に関して悪口や不平不満を言わないようにしましょう。

3.結婚式で後期Coltraneのような演奏はしないようにしましょう。

/*引用終了*/

 

上2つで良いこと言っているのに、3つ目でオチを付けてどうする(笑)

 

一応ご当人の名誉のために付け加えると、残り2つも良いこと言っているし、「やるべきこと」も良いことを言っている。なぜ1つだけ変なことを書く?

 

ちなみに、Wikipediaに掲載されている分類で、Coltraneの後期の演奏というと、名高い「痴情の愛」「至上の愛」"A Love Supreme"からフリージャズ期に入るまでのことを指しているようだが、僕の想像するに、Bobが「後期Coltrane」と言っているのは、おそらくフリージャズ期、そう、あの悪名高き"Ascension"から始まる時代のこんなのも含めての話だと思う。

 

それはさぁ、さすがにイカンよ。人様の結婚式で、こんなの演(や)っちゃ。自分の結婚式だったら、なおさらだ(自爆)

 

僕は"A Love Supreme"が好きだが、さすがに結婚式でスピリチュアルな演奏を延々と聴かされるのもアレだし、こんなのだったら新郎新婦及びご列席の皆様が気の毒すぎる。

 

でも、ここにわざわざ書くってことは、若気の至りで、やっちまったってことだよね。きっとその後の皆様の反応が、Bobのトラウマになっているのかもしれない。


 まぁ、アレな話はともかくとして、教本としては真っ当なので、ご安心下さい。決してスピリチュアルな演奏の教本ではありません。

 

引き続き負け組サックス

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前回の記事では、ひとごとのようにC管(C-melody)サックスの基礎知識的な話を書いていたが、今回は自分のこととして書いてみる。

 

僕がC管を使うのは、こんなときだ。

  • 歌伴確定の演奏現場
  • Key DやKey Aの曲を演奏
  • 他にテナーやアルトが沢山いるセッション現場

逆に、こんな状況じゃ無い場合には、テナーとトランペットの組み合わせが一番しっくりくる。というわけで、僕がC管を使う頻度は、年に1~2度といったところ。

 

歌伴は、C管が最も威力を発揮する用途だ。個人的にトランペットは歌伴向きじゃないと思っているため、歌伴がある場合は、フリューゲルホーンかサックスを使っている。移調楽器(テナーサックスやアルトサックス、トランペット)だと、ボーカリストが持参した、初見で演奏しなければならない譜面に対して、更にコード読み替えという手間が加わるのだが、C管サックスにはこれが不要。だから、譜面のコード進行を読んでいけば、とりあえず歌伴はなんとかなる。

 

Key DやKey Aの曲という話は、自分で移調楽器を演奏した経験が無い方には理解しづらいだろう。ピアノのド(C)とトランペット・テナーサックスのレ(D)は、実は同じ高さの音である。つまり、ピアノとトランペット・テナーサックスは、ドの音が違うということ。この差を埋めるため、ピアノ用の譜面がハ長調(Key C)の場合、テナーサックスやトランペットはその全音1つ上の調を演奏している。

つまり、ピアノ用でKey D(#が2個)の曲の場合、テナーやトランペットだとKey E(#が4個)として演奏しなければならず、ピアノ用でKey A(#が3個)に至ってはKey B(#が5個)として演奏しなけりゃならないのだ。これは結構面倒くさい。

 

僕も大好きなWaveというボサノバの曲は、Key Dで演奏されることが多い。Key Eとしてテナーでも吹けなくはないが、Key Dのままのほうが、よほど楽に吹ける。あと、ジャズではあまりKey Aの曲って登場しないけれど、ポップス・ロック(要はギターが主役のジャンル)だとKey Aは多い。こんな場合にも、C管は楽だ。

 

ところで、僕のC管サックスは、1920年代のC.G.Conn製。この頃のConnのテナーといえば、なんといってもチューベリーだ。モデル名はNew Wonderなのだが、1930年代にこのテナーサックスを使って人気を博していたChu Berryというサックス奏者がいて、彼の名前で通じるようになってしまったという、珍しい機種。うるさ型の人に言わせると、チューベリーはテナーだけであり、アルトはチューベリーと呼んじゃいけないということらしい。

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北浦和なかざわ管楽器修理工房でオーバーホールと若干の近代化工事を行っていただいたのだが、上の画像は、その時にチューベリーと並べて撮影したもの。左がC管で、右がチューベリーだ。同じシリーズの楽器なので、よく似ている。

 

なお僕の楽器は、オリジナル性よりは使ってナンボなので、テーブルキーをもう少し使いやすくするため、こんな感じに軽く改造してある。

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まぁ、この程度だと、近代サックスとの差は埋まらないが、オリジナルの状態よりは少し演奏しやすくなった。

 

吹いた感じだが、僕はアルトに近いと思っている。だが、アルト吹きの友人(新品Cメロディのオーナー)が言うには、テナーに近いと。普段使っているサックスがテナーなのかアルトなのかで、感じ方が違ってくるようだ。

 

さて、最後にC管に対する僕の感想。テナーやアルトでできることは、C管でも大抵は可能なので、C管1本でサックス生活を送ることも可能だろう。だが、それ以上にテナーサックスの方が僕には魅力的。だからC管は、今後も限られた場面でしか使わないだろうなと思う。

 

サックス界の負け組、その名は

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今回のお題は、右側の銀色のサックス。左のアルトサックスと比べると、ネックが長いし、全体的にも少し大きい。

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 続いて、テナーと比べてみる。全体的に少し小さい。

 

管楽器の音の高さは、管の長さで決まる。ということは、この銀色のサックスが、アルトより低い音、テナーより高い音がでる楽器ということは容易に想像できる。でも普通にサックスの種類を問うた場合、高い方からソプラノ、アルト、テナー、バリトンの4種類を挙げる人が大半だろうし、詳しい方の場合でも、せいぜいソプラニーノとバスまでだろう。

 

この銀色のサックスは、C-melody Saxと呼ばれるものだ。読んで字のごとく、C管ということが最大の特徴。つまり、他のサックスのような移調楽器では無い。ピアノ用の譜面をそのまま演奏に使える、便利なもの。各種サックスの中で、最も木管らしい音色と評する人もいる。

 

ちなみに僕が所有するC-melodyは、1920年代にアメリカのC.G.Conn社が製造したもの。C.G.Connといえば、Old American Saxの大手メーカーで、今でもアルトの6Mやテナーの10M、同じくテナーのチューベリ(New Wonder)は、この手のサックスが好きな人の間で人気が高い。なお1枚目の画像のアルトは6Mだ。

 

 このC-melodyサックスは、大半が1920年代から1930年代に製造されたものだ。それはなぜか?というと、ニーズがあまりなく売れなくなったからという答えになるのだろう。

 

こういった楽器のメインユーザーは吹奏楽団の団員だが、吹奏楽では移調楽器(ホルンやクラリネット)を使うのがあたりまえであり、使いなれないC調の楽器を敢えて使うほどの魅力は無かったということらしい。一方、アメリカの一般家庭向けにはある程度売れていて、ホームパーティーなどでアマチュアが演奏を楽しむ用途には向いていただろう。しかしその市場規模は限られており、やがてC-melodyは製造されなくなる。さしずめ、サックス界の負け組といったところか。

 

こんな事情で、現在C-melodyを使おうと考えると、中古を探すことになる。あまり使われず屋根裏部屋に眠っていたような楽器が中古市場に出回ることが多いため、製造年は大正から昭和の始めという古さながら、比較的状態のよい個体が多いようだ。とはいえ、入手したらオーバーホールは必須くらいに考えておいた方が良い。

 

マウスピースは、アルト用、テナー用のいずれかを使う。僕はアルト用を使っているが、テナー用という方も多い。いずれにしても、C-melody用ではないので一長一短があるのはやむを得ない。

 

さて、楽器が仕上がり、マウスピースもセットして、いざ楽器を手にしたその時、最大の難所が待ち構えている。それは、使いにくいテーブルキー。

 

本当は、大多数の方にとっては慣れないキー配置というのが正確な表現なのだろうが、近代的サックス(テーブルキーがセルマータイプ)でサックスを始めた人は、つかいにくいとしか思わないだろう。僕はもともとOld American Saxを愛用していたので、別に何とも思わなかったが、セルマーやヤナギサワ、ヤマハに慣れた方にとっては、使う気をなくさせるには充分な違和感だと思う。 

 

あと、何といっても100年近く昔の楽器なので、近代サックスよりも音程が緩い。自分で音程を決めに行かないと、正確な音程は維持できないので、演奏には気を遣う。

 

移調しなくてよいというメリットとその音色は、歌伴(うたばん)で威力を発揮するので、歌伴が好きな人ならば使っても良いように思うが、このような理由で、僕も他人(ひと)にはお勧めしない。ところが、その問題を解消する道を発見した友人がいる。

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右は僕のC-melody Saxで、左が友人のC-melody Sax。ベルの下に注目してほしい。B♭とBのキーが、両方とも管の右側に付いている。1930年頃のサックスは、管の両側に1つずつというのが標準。あと、この画像だとよく見えないかもしれないが、テーブルキーも近代的な配置になっている。実はこの友人のC-melodyは、新品なのだ。彼はこれを、ライブ演奏でも使うことがある。

 

さすがに、今でもC-melody Saxを作っているところは、僕もこの友人のサックスのメーカーしか知らない。中華製で、単に輸入しただけでは使い物にならず、ネックの真円度など細かい部分をリペアマンに調整してもらって、初めて使用に耐える楽器なので、やはり他人に積極的に勧める気にはならないのだが、近代的なサックスであることには変わりない。ただ、ちょっとだけ羨ましかったりする。