新・桂庵雑記

Jazz演奏やロードバイク、山や海など、桂庵(けいあん)が趣味に関することを書き散らしてます

今年は定禅寺、演奏できません

昨年の定禅寺ストリートジャズフェスティバルでは、メインの会場から遠く離れた青葉城跡で、雨が降るなか伊達政宗公の騎馬像を見ながら演奏してきました。いやー、厳しかった。そもそも機材がほとんど無い会場で、自前でパワードスピーカーなど持ち込んだから、とにかく機材が多い。そこへもって雨天で、機材のセッティングは大変だし、聴衆は少ないし、何一つ良いことは無かったですね。

 

さて今年ですが、昨年の定禅寺での演奏動画で申し込んでみましたが、見事に撃沈。というわけで、今年は仙台に行きません。

 

ただ他で演奏の機会をいただいているので、9月と10月にライブ演奏の予定は入ってます。それ以外にも、フュージョンバンドとかコピーバンドのホーンセクションに挑戦してみる話もありまして、その準備で忙しい。定禅寺に出れないのは残念ですが、それ以外で色々と機会をいただけるのはありがたいことです。

 

今年も行きます、定禅寺ストリートジャズフェスティバル

 すっかりと更新をサボって1年近く経ってしまいました。今年も仙台の定禅寺ストリートジャズフェスティバル(JSF)への演奏参加を応募していまして、「参加OK」との返事が来たのは良いものの、ちと残念な香りがする会場に割り当てられました。

 

 別に分かりにくい場所とかっていうのでは無いのです。ある意味、仙台でトップクラスに有名な場所。なんと仙台城址にある伊達政宗公の騎馬像前! 会場地図では「23 仙台城本丸跡」と表示されてます。

伊達政宗騎馬像

 で、何が残念そうかというと、1つ目はメイン会場からだいぶ離れていること。
JSFって演奏会場が40以上ありまして、音楽のジャンルによってある程度会場は分かれています。で、僕らジャズをやるバンドの場合、定禅寺通りに6か所くらい点在する演奏場所のどこかを指定されることが多い。僕が過去に5回演奏した時は、すべて定禅寺通り沿いの会場でした。
 

 定禅寺通りの演奏会場だと、聴衆の皆さんもだいだい「ジャズやってる地区だなー」と認識していらっしゃるので、演奏場所を順に聴いてまわる方も多いのです。

 

 ところが今回の会場、昨年までは企画演奏で使っていたのを、今回から一般応募用に割り当てたらしい。JSFにジャズを聴きにくる方にとっては、視野に入りにくいし、沢山ジャズをやっている定禅寺通りからも遠い。直線距離でも優に1キロ以上あります。そして定禅寺通りの場合、地下鉄の最寄り駅は南北線の勾当台駅なんですが、仙台城跡は東西線の国際センター駅。つまり、ピンポイントでここだけ聴きにくるという方しか望めません。ついでに聴いていくという方は、まずいない。

 

 逆に、観光客は多いかもしれません。というか、観光客しか居ない気がする(泣)

 

 次に、絵面があまりよろしくない(笑)

 これはJSFのHPからの引用で、2024年の企画演奏の光景。ご覧いただくとお分かりのとおり、仙台の市街地を一望しながら、その手前で僕らが演奏するという光景になるわけです。普段はジャズバーだのライブハウスだの、薄暗い室内に閉じこもって演奏している陰の者にとっては、場違い感が半端ない(笑)

 

 最後に、音響機材がほとんど無いということ。定禅寺通りの会場だと、エレキピアノやベースから音を出せる機材やドラムセットが用意されているのですが、この会場、ほとんど何もありません。上の画像でも、普段は演奏者の近くに設置されているアンプやスピーカーといった機材が一切見当たらないですね。

 

 つまり音を増幅する機器は自前で持ち込みになるので、いったい何人くらいの観客を想定して準備すれば良いものか、なかなか悩ましい。とはいえ、何百人も集まるという状況ではないでしょうから、基本的には手持ちの機材で何とかする方向。エレキピアノやベースはもともとアンプに繋いで使うものなので、自前のアンプを持参。ジャズバーで使う程度の50Wですが、まあ何とかなるでしょう。ドラムはマイク無しで生音。定禅寺通り沿いの会場でも、ドラムにはマイクを使っていなかったので、大丈夫かなと。ドラムにマイクが必要なくらい聴衆が集まったなんて場合は、それはそれでうれしいけど、もうゴメンナサイするしかありません。

 

 悩ましいのは管楽器。ジャズバーで演奏するくらいなら、マイクは使わないのですが、野外会場だとマイクを使っています。それ用の機材は持っていなかったので、マイク無しでやろうかと思っていたのですが、さすがに厳しいかもと思い、こんなものを買いました。

 簡易PA機能を備えたアンプ内蔵スピーカーで、直径20センチくらいのスピーカーに、管楽器用のマイクを3本まで接続できます。うちのバンドは管楽器が2人なんですが、僕がトランペットとサックスを使い分けているので、管楽器マイクは3本。この手の製品で、最も安いのはマイクが2本までなので、それよりは少し高くなりましたが、これならば1台で用が足ります。

 

 というわけで、今回僕が演奏会場に持ち込む機材は以下のとおり。

  • トランペットとテナーサックス
  • 管楽器用のコンデンサマイク
  • エレキピアノとキーボードアンプ(50W)
  • ベースアンプ(50W)
  • アンプ内蔵スピーカー(150W)とそれ用の三脚
  • 譜面台と楽器の置台
  • 各種ケーブル類と延長電源コードを複数
  • 演奏動画撮影用のカメラと特大三脚
  •  

 例年にも増して大荷物を移動することになります。定禅寺通り沿いの会場になることを想定して、車を使わずに機材を準備できるよう、定禅寺通りから近い宿を確保していたのですが、見事に空振り(笑)

 

 最後に、僕らの演奏予定です。

 2025/9/13(土) 14:45から30分間

 バンド名は「直立猿人」。カタギの人間より毛が3本少ないスイングモンキーたちの演奏へお越しいただけると幸いです。

 

2024年9月8日(日)定禅寺SJFでのセットリスト

2024年9月8日(日) 12:30~13:00

定禅寺ストリートジャズフェスティバル

バンド名「直立猿人」

水浴の女像前ステージで演奏しますので、そのセットリストを出しておきます。

 

  • Monster and the flower

作曲:Claudio Roditi ブラジル出身のトランぺッター

2006年発表のアルバム”impressions”に収録

 

  • Sunday Mornin’

作曲:Brian Bromberg ロサンゼルス出身のベーシスト

2007年発表のアルバム”Downright Upright”に収録

 

  • Chan’s Song (Never Said)

作曲:Herbie Hancock グラミー賞の常連ピアニスト

1986年公開の映画”Round Midnight”のために作られた曲

 

  • Feel like makin’ love

作曲:Eugene McDaniels

1974年Roberta Flackが発表し、1975年にMarlena Shawの歌唱で大ヒット

日本人のトリオ” Pyramidが2005年に発表した”Pyramid”でも美しい演奏が収録されています

 

久しぶりに定禅寺(仙台市)で演奏 9月8日(日)12:30

とりあえず、この日この時ここで演奏してねというお知らせだけ頂いた段階なのですが、お知らせです。直立猿人というバンドで、今年の9月8日(日)12:30から30分ほど、仙台市定禅寺通り「シンボルロード水浴の女像」前で演奏させていただきます。

 

前回の演奏は2019年に、同じ場所で演奏させていただきました。久しぶりに仙台の皆様の前で演奏させていただけるということで、メンバー一同欣喜雀躍です。メンバーは前回とほとんど同じ5人編成なのですが、ドラマーだけ交代。

 

選曲をどうするかは、これから悩みます。2019年はMilesなどと同年代のジャズの巨人ピアニストHorace Silverが作曲した曲ばかり固め打ちしましたが、今回は違う路線で行こうと思ってます。

 

 

 

2023/5/6 ライブ@青山シーバード

久しぶりにジャズバンド「直立猿人」でライブ演奏することになりました。これを掲載している当日の18時からです。

今回はジャズを演奏している人が作った曲ばかり集めてみる、というのが選曲のテーマです。うち1曲はバンドメンバーが作った曲だったりする。

 

聴いていただける方のために、曲紹介を出しておきます。

1.C minor(土岐英史
2.Porco di maggio(Yoshiko Fukui)
3.King Neptune(Dexter Gordon
4.Short Cake(J.J.Johnson)
5.Chan's Song(Herbie Hancock

 

〒150-0002 東京都渋谷区渋谷2丁目3-4

Google Mapなどで見ると青山学院沿いの道に面しているのですが、その道からの出入口はドラムで塞がれてしまうので、裏通りの入口から入ってください。

 

さて、久しぶりだけろちゃんと演奏できることやら(苦笑)

 

Selmer USA社のオメガ(Model 162/Model 164)について語るよ

日本でサックス奏者が「セルマー」と聞くと、サックスメーカーのランキングがあったならば毎年のように1位を争うような位置にいる高級サックスメーカーだというイメージを思い起こすのではないかと思う。実際問題として、セルマーのサックスは高価だ。メーカー別にアルトのフラッグシップモデル(銀製は除く)を比較してみましょう。

H.Selmer Supreme 825,000円
H.Selmer SERIE3 617,320円
ビュッフェ・クランポン SENZO 668,800円
J.KEILWERTH SX90R/BN 616,000円
YAMAHA YAS-875 499,950円
ヤナギサワ A-WO20 448,800円

上記はいずれも消費税込み価格で、2021年10月24日に「サックス専門店 WIND BROS.」のHPで掲載されていたものです。やはりセルマー、高いよ(笑)

 

ところが、ネットで「セルマー」を検索すると、そのイメージと懸け離れて安くセルマー製のサックスが売られている場面に遭遇することがあります。だが遭遇しても、慌てて飛びつかない方が良い。安いのには理由がある。

理由は概ね2つ。一つは最近出回っているニセモノ。セルマーヤマハ、ヤナギサワと刻印したニセモノが、ヤフオク、メルカリやECサイトに出回っています。僕は値段だけ見てパスしてしまうので、いちいち中身は見ていないが、本物を知っている人が見れば一目瞭然ということが多いようですね。
そしてもう一つは、別のセルマー社製であるという場合。今回の記事は、この「別のセルマー社」が作った最後のアメリカ製プロフェッショナルサックスについてです。

 

サックスのことをある程度ご存じの方ならば、世の中に"Selmer"と名乗っている会社が二つあることはご存じでしょう。一つは、泣く子も黙るフランスのH.Selmer社。ジャズ界では超有名なマーク6という名機を生み出し、今でも新品でアルトを買うと80万円以上が飛んでしまうという、サックス吹きの多くが憧れる高級サックスの製造会社。そしてもう一つが、アメリカのSelmer USA社。

同じくSelmerの名を冠しているものの、この二つは全く別の会社です。H.Selmer社はフランスに本社と製造拠点を置く楽器メーカー。これに対してSelmer USAは、元来はH.Selmer製のクラリネットサキソフォンアメリカで販売するために、H.Selmer社の創業者兄弟のうち弟の方がアメリカで設立した会社。創業後しばらくして、従業員だったBandy氏へ株式を譲渡して弟は帰国し、H.Selmer社とは資本関係が無くなりましたが、引き続きアメリカで販売代理店としてH.Selmer社製のサックスを販売していました。ただ、それが高価だったため、H.Selmer社製のサックスも販売する一方 、Selmer USA社は低価格の管楽器を委託製造や自社製造で生産して、Selmer USA社製として販売しているのです。つまり、模造品を除けばセルマー製と称する安いサックスは、ほぼSelmer USA社製。

ウェイン・ショーターなどアメリカの著名なサックス奏者が、最初はSelmer USA社製のサックスでその経歴を始めたようです。ヤマハで言えば現在のY*S-280やY*S-380、Y*S-480といったスチューデントモデルの位置づけなので、高い評価を受けることは殆どありません。友人がSelmer USA製のサックスを下取りに出そうとして、値が付かなかったとも聞きます。

 

Selmer USAはその後、幾つもの楽器メーカーを買収し、現在ではConn-Selmer社という社名になっています。このConn-Selmer社は度重なる買収により、有名な管楽器のブランドを数多く引き継いでいて、トランペットで有名なVincent BachやC.G.Conn、King、Benge、Holton、Martinは、すべて現在、Conn-Selmer社の保有するブランド。ConnやKing、Martinはビンテージなアメリカンサックスの有名どころでもありますが、僕が好きなサックス メーカーのBuescher社も、1963年に買収され、後に吸収合併されてSelmer USA社製サックスの生産拠点となりました。

ただし、1980年代に入るとサックスの生産拠点として、台湾が台頭してきたことから、Selmer USA社も生産拠点を台湾へと移し、アメリカ国内で完結するサックス製造は終焉を迎えました。今では、Cannonballのように台湾製等の部品を組み立てるか、台湾製OEMで販売するメーカしか残っていません。これはアメリカだけの現象ではなく、ヤマハや一部の欧州メーカー(カイルベルス等)も一部の生産拠点をアジアに移しています。利益率の高い高級機種は自国で生産し、安価なサックスはアジアで生産するという分業体制に移行したのは、サックスも工業製品である以上、抗いがたい時代の流れなのでしょう。

蛇足ですが、そんな分業化の流れのなかでも、ヤナギサワは1950年代から一貫して板橋区の工場での生産を続けています。1958年に入社した職人さんが今も現役で働いていらっしゃって、モノ作りを愛する姿勢には敬服させられます。

 

さて、Selmer USA社に話を戻します。同社製のサックスは高い評価を受けることが殆ど無いと書きましたが、その例外が僅かにあります。Model 162(アルト)とModel 164(テナー)、及びその後継機種として製造された極めて初期のAS-100/TS-100がその例外です。AS-100/TS-100は、同じ型番でありながら年代が進むにつれコストダウンで構造が簡略化されてゆき、スチューデントモデルにクラス替えしていることから、本稿では評価を棚上げし、162と164のみをSelmer USA社が製造した唯一のプロフェッショナルモデルであるとして解説を進めます。

この二つの機種は、事情通の間ではオメガと呼ばれているのですが、楽器にはOmegaとかΩといった刻印は一切ありません。ここで事情をややこしくするのが、同社製のサックスで楽器本体やケースにOmegaと刻印された機種の存在。先に書いたとおり、プロフェッショナルモデルはModel 162とModel 164だけなので、Omegaと刻印されているものはスチューデントモデルです。スチューデントモデルのOmegaと区別するために、事情通の中にはModel 162とModel 164をわざわざ「オリジナルオメガ」と呼ぶ方もいるとか。本稿では混同を避けるために、以後はModel 162とModel 164を総称してオメガ(162/164)と表記します。

 

このオメガ(162/164)を語るにあたっては、先に「アメセル」と称されるサックスについて触れねばなりません。なぜならオメガ(162/164)には、「最後のアメセル」といった都市伝説が残っているからです。

ジャズの世界だと多くのサックス奏者が珍重する「アメセル」というのは、H.Selmer社製の部品をフランスからアメリカに輸入し、Selmer USA社が組み立てて販売したものです。対比語みたいなものになりますが、アメセルではないH.Selmer社製のサックスのことを「フラセル」と呼んで、アメセルよりは価値が低いと見る人も多い。実際問題、中古サックス市場ではアメセルの方が明らかに高いですし。

なぜ完成品で輸入せず、アメリカで組み立てたのかの理由ですが、関税の高さによるといわれています。只の金属製品ということでパーツを輸入し、アメリカ国内で組み立ててから出荷する方が、完成品を輸入するより安かったようですね。だからこそ、アメリカのジャズサックス奏者の多くは、高いフラセルではなく安いアメセルを買っていた。

 

では、なぜアメセルの方がフラセルより価値が高いと見られるかというと、組み立てや最終仕上げの方法の相違により、アメセルの方が反応と響きが良いというのが有力な説。例えばラッカーをフラセルは焼き付けていますが、アメセルは薄く吹き付けただけ。U字管(一番管)と二番管、U字管とベルを接続している部分が、フラセルだと接着剤で、アメセルだと半田付けという相違。ラッカーはリードが発した振動を減衰させるので、それが薄い方が響きは良いでしょう。管の接合部も、接着剤よりは半田の方が振動を伝えるには向いているのでしょう。それ以外にも細かな違いがあるようですが、僕自身あまり関心が無い事なので、詳細を調べたことはありません。そもそも僕は、アメセルを試奏したことはあれど所有していないですし(笑)

実はSelmer USA社って、サックスの将来についてかなり真剣に考えていた会社なので、よりジャズ向けにするために、いろいろと組み立て工程で工夫をしていたのかもしれません。1960年代に入ってアメリカの音楽シーンでロックンロールやソウルミュージックが大きく台頭し、電気楽器が演奏の主役になりつつあった時期、Selmer USA社は電気楽器と渡り合うサックスとして、電化サックスを市販までこぎつけたなんていう実績もあります。結果として電化サックスは世間に受け入れられなかったものの、サックス人口の維持拡大を図るアプローチとしては面白い。こんな試みを行うような会社だから、アメセルの組み立て等にあたっても、よりミュージシャンのニーズに沿った楽器へとの努力が払われていて、それが現在の高評価へ繋がっているのではないかというのは僕の推測。

【参考】
H&A Selmerエフェクター一体型サックス Varitone(1965年)

秘蔵楽器“蔵出し”徹底解説 その1 Varitone | TC楽器 中古楽器販売と買取

 

その他に、厳しいアメリカのジャズ界で一流ミュージシャンがこぞってアメセルを使っていたからという説もありますが、アメセル全盛期のアメリカで活躍したジャズサックス奏者のうち、デクスター・ゴードンはフラセルを使用していたので、僕はこの説に説得力を感じません。


さて、オメガ(162/164)と関係しないように見える話が続きましたが、これまで書かなかった重要なポイントがあります。それは、アメセルの組み立て工程を担っていたのが旧Buescher社の工場だということ。

アメリカで組み立てられたH.Selmer社製サックス(つまりアメセル)の大半は、以下の3機種です。

  • Super Balanced Action(コルトレーンが愛用したことで有名 1948~1953)
  • Mark 6(ジャズ界で最も人気のアメセル 1954~1974)
  • Mark 7(Mark 6ほどの人気にはならなかった 1975~1980)

Mark 7 の後継機種がSuper Action 80(SA80)、今ではシリーズ1とも呼称されているモデルで、SA80のごく初期でアメリカでの組み立ては終了しました。日本に輸入された最後のアメセル(SA80)を買ったのは渡辺貞夫さんだったという話も聞きます。これがアメセルの終焉。

で、そこから少しして初のプロフェッショナルモデルであるオメガ(162/164)をSelmer USA社は世に出した。僕の推測ですが、おそらくSelmer USA社はSA80がアメリカのジャズマーケットにはあまり向いていないと考えたのでしょう。そこで旧Buescher社から引き継いだリソースを投入して、初のプロフェッショナル向けサックスとして開発したのがModel 162(アルト)であり、Model 164(テナー)であると。H.Selmer社の製品ではないという時点で、オメガ(162/164)は明らかにアメセルじゃありません。ですがかつてアメセルを組み立てていたのと同じ工場からオメガ(162/164)は出荷されています。

 

旧Buescher社から引き継いだリソースには、アメセルの組み立て工程もありましたから、オメガ(162/164)のラッカーや彫刻は、パッと見にはアメセルとよく似ています。そんなところもあって、オメガ(162/164)を「最後のアメセル」だという都市伝説が生まれたのかもしれません。ただし、二番管とベルを繋ぐ金具は三本足でありながら、テーブルキーはMark 7より明らかに小さいし、ベルの彫刻も独特で、見分けることは容易。よく見ると、U字管の補強金具は、Buescher400と同じような形状(一般的なV字型ではなくW字型)をしています。

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オメガ162/164のベル彫刻の特徴

Selmer USA社が意気込んでマーケットに送り込んだオメガ(162/164)ですが、商業的には成功していません。1982年から5年くらいの生産期間で、アルト1,400本程度、テナー600本程度と、さほど売れずに生産を終了しています。H.Selmer製で有名なMark6がアルト、ソプラノ、テナー 、バリトンを全部合わせると17万本以上も生産されたのと比較すると、如何に珍品(笑)であるかを実感していただけるかと。

 

ちなみに僕は何年かかけてBuescher400 Top Hat & Cane(1950年代製)を入手していて、それが結構気に入ったことから、最後のBuescherとしてのオメガ(162/164)を何年も探していました。ようやく今年、164(テナー)を入手することができ、最近はそれを吹いています。164を吹いた感じは、H.Selmerのサックスと操作性は同じなのだけど、それでも明らかに吹奏感は違う。さしずめ吹奏感はBuescher 400で、操作性はMark 6といったところ。

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普段はアメセルを吹いている友人に試奏してもらった時、アメセルとは明らかに違うという感想でしたし、僕もBuescherの系統の楽器と共通しているように強く感じます。オーバーホールをお願いした管楽器店の店長さんも、ジャズに特化した性格がはっきりしているとおっしゃってました。ジャズマーケットに指向したアメリカ製プロフェッショナルサックスの、おそらくは最後の機種です。

 

ちなみに他のメーカーから同じ時期に発売された楽器を見ると、ヤマハはYAS-62(初代)で、ヤナギサワだと880。ヤマハの875やヤナギサワの900シリーズは、もう少し後の登場。だから、オメガ(162/164)をビンテージと見るか否かについては、人によって相当意見が分かれそうですね。

最近、ヤマハのYTS-82zとModel164を吹き比べてみたのですが、ジャズホーンっぽさから言うと僕は音色がダークなModel164に軍配を上げます。だからといって無条件に82zよりModel164が優れているかというと、そこまでの話ではない。Model164は良くも悪くもアメリカ製なので、必要以上に凝った造りにしているところもあれば、結構造りが雑なところもあります。このため、どちらを取るかは個人の好みに左右されるところが大きいでしょう。

サックスの修理工房でも滅多に見ない機種であり、万人向けでは無い機種でもありますが、僕は結構気に入って使っています。

 

◆◆参考にしたWeb情報◆◆

Atelier Ohtake Saxophone Selmer USA 162/164 (OMEGA) Saxophone

セルマー・オメガと呼ばれるモデルについて。その① セルマーUSA社のサックスは全てアメセルなのか? | サックス買取ラボふくおか

Buescherの表の補足「マニアックなBuescher」 | TASAKISAXのブログ

 

贅沢な造りのBuescher 400

今更ながらの話なのだが、2020年8月から2021年2月まで、テナーサックスのレッスンを受けていた。10年以上も前に、見様見真似でサックスを始めて、そのまま自己流で続けてきたのだが、どこかのタイミングで何か月か基礎を習った方が良いと思っていて、ようやく重い腰を上げた形になる。

 

テーブルキーの操作性を統一しておくため、レッスンを受講していた期間中はSelmer Mark7かYAMAHA 82Zだけを使っていた。しかし最近、最終レッスンが終わったので、久しぶりにBuescher 400(以後B400と記載する)を取り出し吹いてみた。やはり現代サックスとは違う魅力を持つ、つくづく良い楽器だと再認識。

 

テーブルキーの操作性を除けば、使いにくいなんてことは無いし、今のサックスより軽い。そして何より、独特の工夫だが今のサックスには見られない仕様が散見されるところが、現代においては見る者に、技術の無駄遣い加減というか、何とも言えぬ贅沢さを感じさせてくれる。

 

Buescherというメーカーは、1900年代にアメリカで金管楽器木管楽器を製造していたのだが、1964年頃にUSA Selmer社に買収され、その数年後には合併されて消滅した。

 

自社ブランドだけでなく、製造工場を持たないブランドのためにOEMでも沢山の管楽器を製造している。 また、いわゆる「アメセル」(フランスから部品状態で輸入され、アメリカで組み立てられたSelmar製サックス)の組み立てを同社が行っていたとも言われている。

 

独自の構造として、サックスのキーカップにSnap on Pad機構を採用していたことでも知られている。次の画像で、ベルの上に乗せてあるのがSnapと呼ばれる金具。画像のSnapは裏返しになっていて、中央に留め具がある。パッドの中央に穴をあけ、Snapの留め具をその穴に通し、キーカップ側に溶接された凸部で接合することで、松脂や接着剤を使わずにパッドを固定するための機構。簡単にパッドを交換できるという利点はあるのだが、松脂を使ってパッドを固定する方が、トーンホールとパッドがより密着するように調整することが可能なので、パッド交換時にリペアマンの手間を増やし、調整料金が他メーカーのサックスより多少高くなるという結果を生んでいる。このため、この機構を除去して、穴を開けずにパッドを付けられるよう改造している人もいるようだ。

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そんな、不便な面もあるのだが、一方で、通常よりも重量のあるメタルリゾネーターという性質もあることから、僕はオリジナルのままで使っている。

 

トランペットのチェット・ベイカーが、Buescherのユーザーとして有名。サックスについて言うと、ソニー・ロリンズがBuescherの"Big B"と称されるモデルを吹いていた時期があり、チャーリー・パーカーがB400のアルトを吹いている写真も残されている。また、エリントン楽団は一時期、サックスセクションをBuescherで統一していた。

  

さて、B400という楽器だが、1940年代から1960年代にかけてBuescher社が生産していたサックスの一モデルである。同じ時期に並行して生産されていたAristcratモデルは、ライバルであったKing(H.N.WHITE)、ConnやMartinと比較しても、比較的保守的な設計(ただしSnap on Pad機構を除く)であったが、B400は実験的というか、意欲的な仕様を持つモデルだ。中でもTop Hat and Caneと呼ばれる、シルクハットと杖の彫刻がベルに施されたモデルは、これが無いB400よりもかなり人気が高い。

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B400の最大の特徴は、全体画像をご覧いただくとすぐ分かるのだが、Low BとLow B♭のキーカップがベルの背面(ベルと二番管の間)にあること。"Behind Bell"と呼ばれる構造で、これがために、キーシャフトの配置はかなり複雑なものとなったが、代わりにキーガードは省略できている。僕の知る範囲で、このBehind Bell構造を採用したサックスは、B400の他には、同じBuescherのAristcrat series 4 だけ。

 

日本にも輸入されていたが、現在、中古市場でその姿を見る機会は少ない。そして、アルト以上にテナーは姿を見ない。そんな中、僕は一時期、B400 Top Hat and Caneのアルトとテナーを同時に所有していたことがある。

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先にe-bayでアルトを入手していたのだが、ある日、ホームページでB400テナーが売り出されたことを知って旧知の楽器店を訪れると、なんとホームページにまだ掲載していないものもあったという状況。希少なB400 Top Hat and Caneのテナーを2本のうちから1本選定できるという、想像もつかないくらい得難い機会をたまたま得たのは、良い思い出。いずれも調整が万全な状態ではなく、判断を迷ったことから一瞬、2本とも買ってしまおうかという考えが頭をよぎった。しかしその2か月くらい前にMark 7テナーを買ったばかりだし、Buescherは他にも400TH&CのアルトとAristcratのテナーがあったので、そこまでの無茶はできないと思いとどまって1本だけを入手。今となって考えると、2本買ったとしても、アメセル1本より安かったのだから、無茶してもよかったかな。(良い子は真似したらアカンで)

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 さて、B400の生産された時代には野心的な構造だったが、現代サックスには殆ど継承されなかった部分を見てゆこう。

 

最大の特徴は、やはり先述したBehind Bellなのだが、それだけではない。例えば、ネックの接合部。KingやConnで採用されていたダブルソケットと呼ばれる機構(ネック側の嵌合部を二重の円筒状として、その間に二番管を挿し入れるもの)では無いものの、嵌合部の真鍮を削った跡に銅板(真鍮より柔らかい素材)を巻き付け、密閉性の向上が図られている。

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また、経年によるネックの垂れ下がりを抑えるためか、ネックの上部には補強板が貼られている。このため、オクターブキーはアンダースラング形状。ただし、Top Hat & CaneではないB400では、アンダースラングでは無い仕様のものもある。

 

ベルに目を移すと、ビッグベルの裏側には、シルバープレートでの補強が為されている。

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ストラップリングも、見るからに重量がありそうな、真鍮では無い素材の金具が使われている。何らかの狙いがあったのだろう。

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最後に、ベルの彫刻の中でも城の部分。僕のテナーは、単純に管体を彫っただけの仕様だが、ここに金属が盛られて、立体的彫刻になっている個体も存在している。すでに手放したアルトは、立体的彫刻だった。 

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つらつらと書いてきたが、何というか、ずいぶんと手間の掛かった楽器であることはお分かりいただけるだろう。工芸品と言っても良いのではないかと思っている。これが例えばヤマハの82Zだと工業製品という感じなので、それを眺めながら一杯呑もうとは思わないが、B400だったら、眺めながら3杯は呑めそうだ。