トランペットの話(ジャジャ馬の後継機は正直者)
ジャジャ馬を下取りに出して入手した、ある意味恐ろしい後継機について書いてみる。
【以前の記事】
上段の、支柱が2本ある方がその後継機、BSC TR-205 Allroundだ。
そもそもBSC(Brass Sound Creation)自体が、マイナーなハンドメイドの工房なので、知らない方も多いだろう。この工房が2006年からしばらく発売していたのが、このAllroundというモデル。これを書いている2016年には、カタログに無い。
どんな楽器なのかを紹介しているサイトを、参考までにご紹介する。
http://www.brasssoundcreation.org/TR203-E.HTM
http://www.select-inter.com/image/bsc/magazine/jl/jl0612.pdf
ちなみに、このAllroundを使うより前から、別のBSC製品を僕は愛用している。それがこれ。
http://www.select-inter.com/spring.html
たかがオイル、されどオイル。僕のシルキーのピストンをスムーズに動かすためには、これが最適だった。
さて、話が脱線しかけたが、このBSCという楽器の何が恐ろしいのか。それは、楽器に救いが無いというところ。シルキーはこの点、人格者(?)の楽器で、多少雑に吹いても、それなりに鳴ってくれる。しかしBSCは容赦がない。吹いたとおりの音しか出してくれないのだ。だから、BSCを吹くときは、シルキーを吹くときよりも神経を相当余計に使わなければならない。ジャズのアドリブを吹く時でも、アドリブの構成だけでなく、吹き方そのものに気を使う度合いが大きいので、これの吹き方をマスターしないことには、とてもじゃないが手の込んだアドリブは無理。
しかし逆に言うと、トランペットを習熟してゆく過程で溜まった自分流のクセを直すためには、すごく良い楽器とも言える。これをキチンと吹けるようになれば、大抵のトランペットは大丈夫だろうというのが、僕の師匠(Bachユーザー)がBSCを吹いての感想。なお、師匠は結構このBSCのことが気に入っているようだ。
というわけで、ここ数か月、ずっとシルキーを封印してBSCだけを使っている。最初の頃よりは、付き合い方に慣れてきたかもしれない。だが、正直者すぎる楽器の性格は相変わらずである。この楽器を御せるようになったら、シルキーももっと自由に吹けることを期待している。
ちなみに、参考で紹介したサイトでは、音程が正確と評価されていて、基本的にはそうだと思っているが、少なくとも僕の楽器については、正確ではないところが一部存在している。それは、開放でハイB♭の音程。ここがだいぶ低い。ちょっと高めのAといったところか。普段はほぼ使わない倍音なので、実害は殆ど無いのだが、たまに開放でミドルGを当てそこなった時にハイAの音が出るのには、ちょいと戸惑う。
ひねくれ音楽用語(2)
かつてtwitterに投稿していたものはここまで。そのうち、気が向いたら続編を書くかもしれません。
TAB譜:音楽の世界に入った若者ベーシストが、その先に進めないようにと、先輩ベーシストの悪だくみで巧妙に仕掛けられた足かせ。この足かせを自ら解除し、五線譜やコード譜に慣れなければ、他の世界には進めない。
個人レッスン:講師との組み合わせ次第で、精神修養の場から娯楽の場まで、ひどい講師だとボッタクリ営業の場から放置プレイにまで幅広く変化可能という、奥ゆかしい行事
デュオ:バンド編成の極北。2人しか居ないと、誤魔化しが効かないし、聴衆の耳を惹きつけるのも大変。それに、喧嘩した場合に仲裁してくれるメンバーが居ないから、解散まで行ってしまいがち。
ドリアン:これを見てトゲトゲの果物を思い浮かべた貴方は、音楽理論などという如何わしい教えに染まっていない、純粋な人だ。染まっちゃった人は、これを見ると「3度をフラットさせて、あと、ついでにどれをフラットさせたろか」なんてハァハァ妄想する。
ポケットトランペット:管を何周にも巻くことで、バスケットボール大の大きさを実現したトランペット。 手乗りサイズなので、バスケットボールのようにシュートすることも可能だが、リングネットに引っかかりやすいので、お薦めできない。
ライブ:打ち上げで飲むビールを美味しくするための、準備運動。
Fly me to the moon:エヴァンゲリオンのラストテーマとして作曲されたわけじゃない。
桜:1月から4月にかけ、J-POPの人々に目を付けられ、やたらと花を散らされるというイジメの対象となる、気の毒な樹木。
メタル:部品の材質を表す言葉。特にサックス奏者の場合には、マウスピースの材質を指している。特定の音楽ジャンルを指すと勘違いする人が、まれに居る。
ゲーマン:ミュージシャンが格好つけて言う ことがまれにあるが、「5万円」のこと。ゲーはドイツ語でのGであり、ドレミファソラシドでドから5番目のソを表す。でも、そんな恰好つけたがる程度のミュージシャンだと、ギャラはゲーマンよりはるかに少ない。
Take5:比較的有名なジャズの曲だが、色々と面倒くさい曲なので、リクエストすると演奏者から嫌がられる。
フリューゲルホーン:古くなったトランペット。長くトランペットを演奏していると、徐々に金属が柔らかくなって延びてゆき、10年くらいたつとこんな形になる。音色が元のトランペットより柔らかい。
オルガン:ジャズ愛聴家の中では、これの入った演奏を嫌う人が多い楽器。前置詞に「スターリンの」と付けると、別の意味で嫌われることがある。
アルトサックス:管楽器を演奏してみたいという人の多くが、その見た目の格好良さと手頃な大きさに騙され、つい買ってしまうという、詐欺まがいの楽器。金切り声や不快な騒音はすぐ出せるが、そうじゃない音を出せるようになるには、地道な練習が必要。
竿モノ:ギターやベースといった、竿状の指板を持つ楽器の総称。だからといって、ギターもベースも超絶技巧で弾ける男性に向かって「よっ、竿師」などと 声をかけてはいけない。
譜面台:ライブ演奏で、ステージを見苦しく演出するための小道具。
ひねくれ音楽用語(1)
辞書パロディの元祖的存在「悪魔の辞典」にヒントを得て、しばらく前に、”初心者向け音楽用語”というハッシュタグを付け、決して初心者向けとは言えない音楽用語(?)ネタを、twitterに書いていました。そのなかから、改めて世に曝してもいいかなと思えるものを、いくつかピックアップします。今回はその第1弾。
なお、一部、初出から編集しているものがあります。
サックス:特定の楽器個体に惑溺するプレイヤーの多い木管楽器。溺愛するあまり、自分の楽器に女性名を付ける男性がいるので、ジャズ隆盛期のアメリカで、ジャズ評論家がサックスを「金属のペニス」と評していたことは 内緒にしておこう。
僕の好きな"Just Friends"
10年前に、僕がジャズの演奏に足を踏み入れて以来、最も好きな曲の地位をキープしているのが、"Just friends"というスタンダードナンバー。1930年代に作曲された曲なので、色々な演奏者が録音しており、名演奏も多い。
歌詞はというと、恋人だった二人が今日からは只の友達になるという、切ないものだが、結構豪快に演奏されることも多い。僕自身も、ジャムセッションでよく演奏するが、豪快に演奏する方が「らしい」気がする。
しっとりとした方だと、"Charlie Parker With Srings"におけるCharlie Parkerの演奏は当人も周りも認める名演だ。オーケストラをバックにしたParkerのソロは、今となってはその演奏スタイルこそ古く感じられるが、美しくも凄い。
豪快系の方になると、僕のような凡人にも「こんな風にやってみたい」と感じさせてくれる、 もう少し親しみやすい快演が多く登場している。そんな中でも、一二を争うくらい僕が好む演奏が、Dexter Gordonの1970年代に録音したもの。Niels Pedersenのがっちり固めた通奏低音と、Horace Parlanのスインギーなピアノに乗り、引き締まったテナーの音色で次から次へと紡ぎだされるフレーズの奔流に、つい引き込まれてしまわないだろうか。
サックスとトランペットなど、マルチプレイヤーのこと
演奏の場で僕と会ったことがある方なら、大抵はご存じのことと思うが、僕は複数の管楽器を演奏している。主に演奏するのはトランペットと、その持ち替え 楽器たるフリューゲルホーンだ。そして、サックスも吹く。ソプラノ、アルトとテナーを持っているが、普段吹くのはテナーサックス。演奏現場では、1曲のう ちでトランペットとサックスを持ち替えて演奏することもある。
なぜこんなことになっているかというと、それは僕がトランペットを始めた 経緯と大きく関わっている。そもそも、僕が好きな楽器は、テナーサックスである。Sonny Rollinsの名盤"Saxophone Colossus"で、朗々としたテナーサックスの調べに魅せられて、僕はジャズばかり聴くようになった。そこに、トランペットなぞ入り込む余地は無い。 今だもって、好きなジャズ・ミュージシャンを聞かれると、Dexter GordonとかSonny Stittなど、サックス奏者の名前を挙げている。
時はそれから10と数年後、市役所が主催したジャズ演奏教室でアルトサックスを習っていた某同居人の様子を見ていて、自分でもテナーサックスを吹いてみたいと僕は一念発起した。普通なら、そのままテナーサックスへと突き進むところであるが、思わぬ回り道を余儀なくさせたのは、某同居人の一言。「自分と楽器 がかぶるのは、嫌だ」
これを言われてしまうと、テナーサックスもアルトサックスも、とにかくサックスと名の付く楽器には手を出せない。いかに好きだとて、家庭の平和を犠牲するという対価は大きすぎる。さて、どうしよう . . .となった訳だ。
僕が好きだったジャズ・ミュージシャンは、Sonny Rollinsを始め、サックス奏者が多いのだが、たまたまトランペット奏者Clifford Brownの演奏も好きだった。というわけで、サックスへの道を閉ざされ、消去法で楽器を選んだトランペット奏者が一人誕生したのである。1年間は、独学 でひたすら基礎練習を続け、2年目からジャズの演奏現場に少しずつ顔を出すようになった。しかし、サックスへの思いは断ち難く、地道に某同居人を説得し て、少しずつサックスも吹くようになり、今に至る。
ところで、僕がこれまで出会ってきた方々には、サックスとトランペットは両立しないと思っている方が、結構な確率で見受けられた。でも、それって、なぜそう思うのだろう?
例えば、金管楽器同士なら、トランペットとフリューゲルホーンやコルネットは、比較的容易に持ち替えができるため、両方吹く方は珍しくない。木管楽器同士 でも、クラリネット、サックスとフルートのうち2つ、もしくは全部を演奏できる方は、珍しくない。それなのに、金管と木管の両方の場合には、驚かれるの だ。「トランペットとサックスと、よく両方演奏できますね」と驚かれた経験は、一度や二度じゃない。そのような、僕から見ると変な常識が形づくられた背景について考えてみた。
サックスとトランペットを両立させることが出来なかった経験を持つ方がいるかと考えると、これは存在する。身近な例で言うと、僕のトランペットの師匠がその一人だ。サックスを鳴らしてみた後は、しばらくトランペットを鳴らせなくなったらしい。
金管楽器への入り口の狭さも、原因の一つかもしれない。木管楽器は葦の板(リード)を息で振動させる構造であり、とりあえず音を出すだけなら、誰でもでき る。これに対し金管楽器は、自分の唇を息で振動させるのだが、どうやっても何度やっても鳴らすことの出来ないという方がいる。身近なところでも実例を見ている。
また、日本人には二刀流を好まず、一つのワザに専念し極めてゆくことを良しとする発想が、多かれ少なかれ有る。だから、誰かが手当たり次第に色々な楽器に手を出すことに、なぜかしら「良くないこと」と感じてしまうのだろう。
あと、吹奏楽出身者など技量を追及した経験のある方の場合、限りある練習時間のことを考えたなら、操作に親和性の高い木管同士もしくは金管同士の範囲で使う楽器を留めておくのがアタリマエみたいな心理が働いているのかもしれない。
自分自身の話をすると、僕はだいぶ大人になってから管楽器を始めたので、自分がプロの演奏舞台に立つ姿など想像もしなかった。技量については、人様の前で 演奏するのに必要なレベルさえあれば、あとはオマケみたいなものだと思っている。もちろんオマケが多い方が良いが、別に僕がプロ並みにならねばという必要 性も感じていない。それよりは、やってみたいと思った楽器を、広く浅くやってみたい。演奏する機会を楽しむだけではなく、楽器そのものも楽しみたいのであ る。
だから僕は、いくつも楽器に手を出してみた。トランペットに続いて挑戦したのは、ドラム。これは1年半レッスンに通ったが、なかなか基礎編から脱却できず断 念。次にアップライトベース。これは今でも続いている。そしていよいよ、好きだったサックスに挑戦。今はテナーサックスとトランペットを、両方とも演奏現 場に持参することが多い。このほかにも、トランペットの持ち替え楽器としてコルネットとフリューゲルホーンを吹いているが、コルネットは使う機会がほとんど無いので、手放した。バルブトロンボーンは、吹くことは出来るのだが、トランペットと交互に吹くのは無理。これを一度吹くと、唇のなかでも、トランペッ トを吹くときに振動させる領域が痺れ、音を出せなくなる。フルートもやってみたが、これは結構難しい。しかしそれより難しかったのが、クラリネット。バス クラリネットの音色が好きで、これを演奏で使ってみたいのだが、指使いが難しく、当分は無理だろう。クロマチックハーモニカは、一発芸として使う程度だ が、その音色は結構好みだ。
類は友を呼ぶという訳でもないだろうが、僕の周囲には、複数の楽器を演奏する方が、結構いる。プロの音楽家 でも、複数の楽器を演奏する方はいる。大御所クラスだと、T-SQUAREのサックス奏者だった本田雅人さん(サックス、トランペット、ピアノ、ギター、 ドラムなど)、Keith Jarrett(ピアノ、ソプラノサックス、パーカッション、リコーダーなど)やMarcus Miller(ベース、ギター、ドラム、バスクラリネットなど)といった名前がすぐ挙がるくらいだから、マルチプレーヤーは珍しくない。一つの楽器を極めるのは、当然良いことだと思うが、マルチにはマルチの良さと楽しさがある。
サックスも吹いてみたいという喇叭(らっぱ)吹きや、トラ ンペットも吹いてみたいというサックス奏者、そんな皆さんに向けて、僕は「一刀流にこだわる必要は無い」と宣言しよう。やってみたいと思い、それを可能に できる経済環境や音楽環境があるならば、とりあえずやってみれば良いんじゃないかな。